自治体に対して、コロナ禍でわかった緊急事態下で必要な保育体制の確立と公立保育園が果たすべき役割の明確化を求める当面の取り組み
2021年1月20日
東京自治労連中央執行委員会
1.はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大は収まるところを知らず、この未曽有の事態に保育施設では子どもも保護者も職員も、できるだけ接触しないようにする、こまめな換気、施設内や遊具の消毒など、さまざまな対応に追われています。しかし、諸外国と比較しても劣悪な保育室の面積基準や職員配置基準の基で「三密」を回避するのは不可能であり、現場の対応には限界があります。そんな中、保育施設でもクラスターの発生や、保護者、園児、職員の感染の報告も相次いでいます。保育労働者は「もし勤務する保育園で感染者が出たら、自分が新型コロナウイルスに感染したら…」という不安を抱えながら働く日々が続いています。
このコロナ禍で、住民が必要とする保育をスピーディに提供できるのは、公立保育園であることが明らかになりました。4月からの緊急事態宣言下で、休園や登園自粛要請が相次ぎましたが、その中で、豊島では、小規模保育所や保育ママに通う子どもを公立の連携園で保育しました。世田谷では、保育園の看護師が、疫学調査で多忙を極める保健所の応援に入りました。全国でも、北九州市では、医療関係者などの子どもを預かる緊急保育所が設置され、公立の保育士が保育にあたりました。京都市では、保護者が新型コロナウイルスに感染し養育できない家庭の子どもを児童相談所の一時保育所で保護しましたが、その保育に、公立の保育士が派遣されました。自治体が運営する公立保育所があることで、保育士などが、自治体業務に柔軟に対応することができました。
ここでは、コロナ禍で明らかになった緊急事態下における保育体制を確立する必要性と、そのためには公立保育園の存在が欠かせないこと、それを自治体に認めさせる取り組みについて提起します。
2.政府がすすめたこの間の公立保育園の規制緩和
政府は、子ども・子育て支援新制度の施行に合わせ、国が示す基本指針に即して、5年ごとに「市町村子ども・子育て支援事業計画」の策定を義務付けました。20年度から2期目が始まりました。その中に「多様な事業者の参入促進・能力活用事業」という項目が設けられています。その項目には「特定教育・保育施設等への民間事業者の参入の促進に関する調査研究その他多様な事業者の能力を活用した特定教育・保育施設等の設置又は運営を促進するための事業」という説明が添えられています。つまり、民営化の検討が位置づけられています。
内閣府は、2020年10月の子ども・子育て会議に「第2期市町村子ども・子育て支援事業計画における『量の見込み』及び『確保方策』内閣府の『予算方策』について」という資料を提出しました。この資料には、この事業を実施する市町村の数が記載されおり、2019年193自治体、20年223自治体、21年226自治体、22年219自治体、23年220自治体、24年224自治体となっています。
また、都道府県で100%、区市町村で99.4%が策定済の「公共施設等総合管理計画」では、集約・統廃合された公共施設の3割が保育・教育施設です。
2000年の認可保育所への株式会社参入解禁後、2004年に公立保育所運営費の一般財源化、2006年に公立保育所施設整備費の一般財源化が相次いで実施され、指定管理者制度が導入されたことで、民間委託・民営化が一気に加速しました。
2009年、公立保育園11,317か所に対して民間保育園は11,616か所となり、公民の保育園数が逆転しました。それ以来公立保育園は減少を続け、2016年には9,778か所と1万を切り1972年当時の水準に後退しました。2016年には281か所、2017年には280か所減少と、毎年300か所弱の公立保育園がなくなっています。
2015年の子ども・子育て支援新制度施行時に、公立保育園を無償もしくは安価で譲渡・貸付できる公私連携型保育所が規定されたことが重なって民営化が一層進みました。そして、2019年の「幼児教育・保育の無償化」によって、民間保育園が多ければ多いほど自治体の負担は軽減され、公立が多ければ多いほど負担が増えたことが、この流れに拍車をかけています。
公立保育園の民営化は、緊縮財政、規制緩和、民間活力の導入を柱とする新自由主義的政策を進めてきたことによるものです。菅首相が「自助・共助・公助」という公約を掲げていることからも明らかなように、現政権は「緊縮財政・規制緩和・民営化」の3つを柱とする新自由主義的改革を推し進めようとしています。これに対抗して、子育て世帯に対する「公助」の代表である公立保育園を守るためには、広範な世論の支持が必要となり、そのための運動が欠かせません。
3.公立保育園の民営化をめぐる流れの変化
(1)公立保育園の民営化をめぐって
目黒区は、2020年7月に「区立保育園の民営化に関する計画の改定の進め方について(案)」を公表し、これまでの民営化の成果を強調した上で、引き続き民営化を進める考えを明らかにしました。
目黒区職労保育園支部は、保育園職員アンケートを実施し、277人分(74,86%)を集約しました。回答では、特に「保育の質」についての記載が一番多く、目に見えないソフト面の良さを「公立の役割」の中にどのように反映していくかが、今後の課題となります。
さらに、民間保育施設へのアンケートを行い、今までつながりのなかった保育園からも多くの回答が寄せられました。回答では、「公立園と交流したい」「医療ケアや難しい保育は公立でやってほしい」「めぐろのモデル園の役割を果たして欲しい」など公立保育園への期待の高さが浮き彫りになりました。特に「職員の人材育成や研修」「公私立保育園のネットワーク、連携の体制や仕組み」には、期待が集まっています。また、「横(区内園)のつながり、連携がある。」「情報共有」「研修の積み重ねで常に前進して保育をできること」「公の機関として、地域全体の福祉の向上についての責務がある。」など公立だから出来る点も明らかになりました。現在は、父母の会連絡会や保育問題協議会などの団体と協力しながら運動を進めています。
一方、京都市では、2012年以降保護者の民間移管反対の声を無視して9か所の市営保育所を移管してきました。その中、中京区の聚楽保育所では、3度目の公募で移管先の法人が決まったものの、10月の市議会の直前に法人から辞退の申し出があり、市議会に提案されていた廃止条例を撤回する事態が起こりました。同時期に市内の他の社会福祉法人から市に対して民間移管に対する提案があり、市はそれを受け、その法人が運営する保育所のそばの市営保育所を移管すると表明しました。「AがダメになったらB」と、まさに数合わせの論理で、公民を問わず保育関係者から抗議の声が上がっています。
(2)公設民営園、運営費差し押さえられた法人が運営辞退
足立区の公設民営園「新田三丁目保育園」を運営している社会福祉法人「南流山福祉会」が、別に運営している「私立流山なかよし保育園」の元園長らから、給与が未払いだとして提訴され、法人側に約5000万円の賠償を求める判決が下されました。訴訟は係争中ですが、賠償を巡り新田三丁目と流山市の保育園運営費に差し押さえ命令が出され、区が法人に振り込む予定だった運営費も支払えなくなりました。
区は指定管理を解除し、12月1日から園長、主任に区役所内の保育園経験者を、保育士に公立保育園から5人を派遣し、ここで働いていた非常勤職員3人を会計年度任用職員で採用して対応しています。しかし、区当局は2年後位に廃園と決まっているとし、公立保育園として存続することは考えていません。
このような法人を指定管理者にした足立区の責任は重大です。そもそも運営費は、職員の人件費が積算の主な根拠となっており、毎月自治体から支払われるものです。
民間委託・民営化を推進すればこのような事態も引き起こされるのです。
コロナ禍という前代未聞の事態により、緊急事態下において自治体が必要とする子育て支援を迅速に行えるのは直営の公立保育園しかないことが明らかになりました。
4.運動の基本
◎各自治体に緊急事態下における保育体制を確保するための具体的な計画を策定させる。
◎緊急事態下において住民の保育ニーズに迅速に対応するために公立保育園が果たす役割を明確にした上で、新設や増改築などを含め、公立保育園の整備とそれに伴う人員増を行わせる。
◎広範な地域住民に公立保育園の存在意義を伝える宣伝行動に取り組む。
◎運動を前進させるための学習活動に取り組む。
◎公立保育園を守る運動の中で、保護者・地域住民との共同を前進させ、組合員の団結を深め、組織を強化する。
5.具体的な要求と運動
(1)緊急事態下における保育の実施体制にかかわる具体的な計画の策定を
@ エッセンシャルワーカーなど緊急事態下でも働かざる得ない保護者がどの程度存在し、どの程度の子どもが保育を必要とするか、出勤可能な保育士がどの程度見込めるかを把握し、需要と供給をもとに保育体制をどうするかについて考え方を示すよう求める。
A 保育園等で感染者が発生し、休園という措置を取らざるを得なくなった際、公立保育園が中心となってバックアップできる体制を、人員を含め確立するよう求める。
B 保育園における消毒、換気などの具体策、保育士に対する必要に応じた迅速なPCR検査に関する具体策などを網羅したガイドラインを策定するよう求める。
(2)公立保育園の役割の明確化と新たな整備計画の策定
@ 緊急事態下に公立保育園が果たすべき役割を明確にするよう求める。
A 今後予想される保育需要増大を見越し、公立保育園の民営化計画を凍結し、新設・増改築と人員増を盛り込んだ新たな整備計画を策定するよう求める。
(3)要請・宣伝行動
@ 自治体に対する要請行動に取り組む。
A 駅頭や門前宣伝行動に加え、SNSなどを駆使して、広範な保護者、住民に対し、緊急事態下の保育体制の整備の必要性や公立保育園の存在意義を訴える。
(4)学習活動
@ Zoomなどを活用した学習活動に取り組む。
(5)共同の前進・組織強化
@ 保育問題協議会、父母会連絡会、福祉保育労働組合、新日本婦人の会などの団体に申し入れを行い、共同の運動を呼びかける。組織がない地域、休眠している地域では新たな運動体を立ち上げる。
A 広範な組合員に、SNSの活用や宣伝チラシの策定などへの協力を呼びかけ、運動の参加者を増やしながら組織強化を図る。
B 未組織の会計年度任用職員に運動の内容を伝え、運動への支持を依頼しながら、公務公共一般・保育ユニオンへの加入を呼びかける。
以 上