公立保育園の民営化攻撃とたたかうための基本的な考え方(案)
2019年4月17日
東京自治労連中央執行委員会
1.はじめに
公立保育園の民営化は、2004年の公立保育所運営費の一般財源化、2006年の公立保育所の施設整備費の一般財源化により一気に加速し、最盛期は全認可保育園の60%超を占めていた公立保育園は、今日35%にまで減少しています。
近年、深刻な待機児童問題で民営化の動きは鈍化していましたが、ここにきて新たな波が押し寄せています。総務省が主導する「公共施設等総合管理計画」によって、各自治体は、施設の複合化などをすすめ、その中で新たな民営化計画を策定しています。公務員の半減を目指すとする「自治体戦略2040構想」や正規から非正規への置き換えを進める可能性が高い「会計年度任用職員制度」の導入、さらには公立施設の無償化費用はすべて自治体の負担とする「幼児教育・保育の無償化」などの施策が民営化を後押ししています。
民営化は、子どもが理由も知らされずに愛着関係にある保育士と引き離されるということもさることながら、住民の財産である公共施設が住民の了解も得ることなく民間事業者に譲渡されること、そして、組合員の減少による自治体労働組合の弱体化につながるなど多くの問題があります。
東京自治労連は、子どもの健やかな育ちと保護者の就労を守り、自治体保育労働者と自治体労働組合を守る運動を前進させるため、民営化攻撃とたたかうための基本的な考え方を提示し、取り組みを強めます。
2.民営化にかかわる情勢の特徴
(1) | 総務省による民営化の誘導策 総務省が公共施設の統廃合を進めるために自治体に策定を求めた「公共施設等総合管理計画」は、都道府県レベルで100%、区市町村では99.4%で策定済みとなっており、多くの区市町村がこの計画に民営化を盛り込んでいます。 また、総務省が立ち上げた「自治体戦略2040構想研究会」は、2018年4月に第1次報告、7月に第2次報告を公表しました。「高齢化がピークを迎え、若い勤労者が激減する2040年頃、地方自治体が半数の職員でも業務に対応できる仕組みを構築する」として、@自治体業務の標準化と、人工知能(AI)、ロボティックスを活用した職員の半減化A自治体がすべての住民サービスを担う「フルセット主義」からの脱却B市町村単位の基礎自治体から、圏域単位での行政へ転換などで、国が主導して自治体職員の大幅削減、住民サービスの圏域化、広域化、集約化を進めるなどの内容を提起しています。地方公務員の半減を目指すとなれば公立保育園の民営化が加速するのは必至です。 |
(2) | 幼児教育・保育の無償化 4月、国会において子ども・子育て支援法「改正」案が成立したことで、2019年10月の消費税増税と同時に幼児教育・保育の無償化が始まることが決まりました。財源の負担は、民間施設(保育園、認定こども園、新制度に移行した幼稚園)は、国1/2、都道府県1/4、区市町村1/4という割合で、公立施設(保育園、認定こども園、幼稚園)は、10/10区市町村負担となっています。民間施設は1/2で、公立は10/10となれば、民間施設が多ければ多いほど自治体負担は従来よりも軽減され、公立施設が多ければ多いほど従来よりも負担が増えます。総務省は、公立施設の市町村負担部分は、地方消費税で充当できると説明しますが、地方消費税の配分では目的別使途が限定された部分がありますが、配分後どう使うかは区市町村の判断となることから、公立保育園の廃止・民営化が加速する可能性があります。 |
(3) | 会計年度任用職員制度の導入 2020年から施行される会計年度任用職員制度は、自治体に働く臨時・非常勤職員のほとんどに適用されます。現在、23区では、特区連と区長会の交渉を終えて、制度内容を各区で取りまとめているところであり、各単組において、現状よりもよりよい処遇に条例改正されるよう要求書の提出や交渉が進んでいます。特区連交渉において、週15時間半以上勤務者には一時金支給など、改善される部分もあります。しかし、臨時・非常勤職員の流失を防ぐために思い切った処遇改善を行う代わりに正規職員の削減を進めると考える自治体もあります。また、公務公共一般が臨時・非常勤職員に行ったアンケート調査でも、多くの臨時・非常勤職員から雇用不安の声が上がっています。 会計年度任用職員制度の導入によって、正規から職員定数外の会計年度任用職員への置き換えがすすめられ、会計年度任用職員の処遇改善のためとして正規の削減が進み、それを突破口に民営化につながることが危惧されます。なぜなら、会計年度任用職員は1年ごとの任用であり、職員の調整弁とすることで、民営化が進めやすくなるからです。 |
(4) | 自治体が考える公立保育園のあり方の典型 中野区では、2018年の区長選挙で「民営化をやめる」と公約した野党共闘が推す候補者が当選しました。そして、2018年12月「区政運営方針(案)」で、現時点での公立保育園のあり方に対する考え方を示しました。ここに自治体が考える公立保育園のあり方の典型を見ることができます。ここでは、『区立保育園については、区内保育施設全体の質の向上や連携強化、障害児や特別な支援を要する子どもたちへの対応を図るため、区立保育園が果たすべき役割を再整理するとともに、保育需要の見通し、保育施設の規模、また、中・長期的な財政への影響等を十分検証し、一定数を存続する方向で今後の在り方を検討する。』とあります。「区内保育施設全体の質の向上や連携強化」「障害児や特別支援を要する子どもたちへの対応」の2点を公立保育園の果たすべき役割としているところがポイントです。 まず、「区内保育施設全体の質の向上や連携強化」という考え方は、墨田区で、同様の考え方を具体化した計画「基幹園構想」がすでに破綻しています。墨田区は、2015年9月に策定した「墨田区保育所等整備計画」に基づいて公立保育園の民間委託・民営化を進めており、公設民営園の民営化を含め今後7園の運営形態が変わる予定ですが、その計画の中に「基幹園構想」がありました。直営施設は10ヶ所存続させることとし、その施設が、各ブロックの中核として民間施設の支援などを行わせるという構想です。しかし、新たな事業を行うとなればそのための増員は不可欠であること。待機児童の増大で民間保育施設が増え続けているために基幹としての役割を公立保育園一施設で担うのは困難などの理由から、区は1年後の2016年9月に「基幹園化は撤回する」と表明しました。このように「区内保育施設全体の質の向上や連携強化」のために公立保育園を活用することには無理があります。 2つめの「障害児や特別支援を要する子どもたちへの対応」という考え方は、民間施設では断られるケースが多いため、すでに全国の自治体で公立保育園での障害児や医療的ケア児など配慮の必要な子どもの受け入れが増加している実態があります。 港区は、2020年1月、新設予定の公立保育園(定員200名)に医療的ケア児や障害児の保育を行うクラスを設ける予定です。このクラスの定員は約20名で、送迎が困難な場合は福祉車両で送迎も行うというものです。新たに公立保育園をつくる大英断を下した港区は称賛に値します。しかし、公立保育園の役割を障害児や医療的ケア児の受け入れに特化していけば、それを実施する施設だけ直営を残せばよいという論理が成り立ち、結果として公立保育園の拠点化を進め、民営化を後押しすることにつながりかねません。 |
3.公立保育園の存在意義
(1) | 自治体の保育実施義務を守る 児童福祉法は24条第1項で「自治体の保育実施義務」を規定しています。それを直接果たすのが公立保育園です。国が民間の認可保育園に支出している運営費の名称が「委託費」であることがその証です。 そして、公立保育園が少なくなればなるほど、市場原理が浸透し、それにより自治体の保育実施義務が形骸化していきます。その行き着く先は、保育の完全自由化と公的保育制度の崩壊です。公立保育園の存在がそれを防ぐのです。 |
(2) | 地域の保育のスタンダードをつくる 公立保育園は同一自治体内に複数存在しています。保育士はその中で異動を繰り返します。同じ研修を受けるなど自治体のビジョンを共有します。保育条件、保育環境、保育士の処遇も同じです。そのような施設が地域の各所に設置されていることが地域の保育のスタンダードをつくります。さらに、公立保育園の条件が民間保育園の保育条件や保育環境などに影響を与えます。 また、公立保育園は「公共性が高い」という特徴があるため、広範な市民が求める保育内容をつくる必要があります。そのような必要があるからこそ、特徴のある保育ではなく、普通の保育をする施設となります。そのことにより保育内容においても地域のスタンダードをつくっているのです。 公立保育園は住民の税金でつくられた自治体が運営する施設です。だから、公立保育園は地域住民の要求に応えるための保育・子育て支援施策を実施する責任があります。 |
(3) | 広範な都民から支持されている 東京都保育ニーズ実態調査(2018年5月18日)によれば、公立保育園の利用希望者は51.9%。私立保育園の39.3%、幼稚園の30%を上回りダントツの1位です。しかし、利用できている人は17.0%にとどまり、私立保育園の21.4%、幼稚園の23.3%を大きく下回り、希望−利用ギャップは34.9%となっています。 深刻な保育士不足、土地不足の中にあっても、新しい保育施設が次々つくられています。経験の浅い保育士ばかりの保育施設や園庭がない保育施設が増え、子どもを預けたい子育て世帯の不安が高まっています。だからこそ、公立保育園の利用希望者が多くなります。公立保育園には安心があるからこそ支持されているのです。 |
4.民営化攻撃とたたかうための基本的な考え方
(1) | 子どもの権利を守る 子どもの権利条約の4つの柱「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」が保障されてこそ、子どもの豊かな発達を保障し、保護者も安心して就労できます。この4つの柱がないがしろにされているために、児童虐待の増加など、子どもが被害を受ける事件が相次いでいます。この国の政府は、保育においても経済成長のための女性の労働力の確保と保育の市場化を優先し、子どもの権利を二の次にしています。保育園において子どもが幸せに過ごすには、保育士との安定した関係が欠かせません。それを遮断するのが民営化です。民営化は子どもの権利をないがしろにする施策以外の何ものでもありません。 |
(2) | 地方自治を守る 住民の財産である公立保育園を行政や議会が勝手に売却したり譲渡するのが民営化です。一度手放した土地を再び取り戻すことは困難です。今後少子化が進み、仮に公立保育園としての役割を終えることになったとしても、跡地をどう活用するかは住民が参画して決めるべきであり、それが地方自治のあるべき姿です。 |
(3) | 運動を進めるにあたっては、広範な世論に支持される住民運動の構築が必須 労働組合が民営化に反対しても、これは政策課題であり、管理運営事項であるとされ、労使交渉できる項目は組合員の労働条件にかかわる内容に限定されます。したがって、民営化を阻止するためには、広範な世論に支持される住民運動を構築することが不可欠です。民営化すると名指しされた保育園の保護者の多くは反対します。しかし、他の園に預けている保護者には対岸の火事であり、その他の地域住民であればなおさらです。 他方、保育・子育て支援に関する地域住民の要求は多種多様です。待機児童の解消、保育の質の向上、子育てにかかる経費の軽減、子どものあそび場の確保などは多くの地域に存在する要求です。民営化は待機児童の解消に逆行し、保育の質の低下をもたらす可能性もあります。地域の保育要求の実現という観点からも様々な問題があり、地域での共同を広げることが重要です。 広範な地域住民は、地域の子どもがすこやかに育つことを願っています。よりよい保育の実現もその一つです。「民営化は、よりよい保育の実現を妨げる大きな要因だから反対する」という形で要求項目の一つとして掲げることで、民営化反対が広範な世論に支持される住民運動に転化します。 保育関係者や保育関係団体だけでなく、社会保障や教育にかかわる団体、女性団体、労働団体など地域のさまざまな団体・個人との共闘を広げることも大変重要です。 |
以上