まやかしの「幼児教育・保育の無償化」実施に伴う緊急の取り組み方針
2019年5月8日
東京自治労連中央執行委員会
1.はじめに
東京自治労連は、問題だらけの「幼児教育・保育の無償化」を少しでもまっとうな内容にすることをめざし、2月13日に「よりよい『幼児教育・保育の無償化』の実現をめざす当面の取り組み方針」(以下、当面の取り組み方針)を策定・発出しました。これを受け、各単組では自治労連の学習リーフを使った学習や、保護者への宣伝などが行われています。
政府は、今通常国会に「幼児教育・保育の無償化」に係わる「子ども・子育て支援法『改正』案」を上程しました。しかし、この「改正」案には、「無償化」の文言はなく、単に「法の基本理念」に「子供の保護者の経済的負担の軽減に適切に配慮」を追加しているだけで、「無償化」と呼べるものとなっていません。この「子ども・子育て支援法『改正』案」は、5月中旬には成立の見込みです。これにより、消費税が10%になる10月から「無償化」の名で「経済的負担の軽減」が実施されます。
国会での審議とともに、内閣府は、2月18日に「子ども・子育て支援新制度 地方自治体担当者向け説明会」を開催し、各自治体では条例の準備や事務システムの変更などが始まっています。自治体での条例は6月議会での審議が想定されるため、少しでもよりよい内容にするため緊急に取り組む必要があります。そこで、当面の取り組み方針を補強し、改めて緊急に取り組むべき課題を提起します。
2.「無償化」の概要と問題点
(1) | 「無償化」制度の概要 |
@ | 「無償化」の財源は消費税です。その費用は、年間約8,000億円を要するとしており、そのうちの4,660億円が認可保育園分です。19年度(半年分)の費用として消費税の増収分から3,882億円(地方分の特例交付金2,349億円を含む)をあてます。 |
A | 幼稚園、認可保育園、認定こども園の「無償化」は、3〜5歳児は、親の所得を問わず全員を対象とし、0〜2歳児は、住民税非課税世帯(年収約250万円以下)を対象にします。 |
B | 認可外保育施設は、所得制限付きで37,000円を上限にします。指導監督の基準を満たしていない認可外施設も対象としますが、自治体が条例に定めれば、基準を満たさない施設を適用外とすることがでます。 |
C | 給食費は、幼稚園の公定価格に給食費が含まれていないことから実費徴収です(年収360万円以下の世帯は副食費を免除)。公定価格上の給食費は、主食が月3,000円、副食が月4,500円となっており、これを基本に、各自治体で給食費を定め、徴収します。 |
D | 財源負担の割合は、民間施設(保育園、認定こども園、新制度に移行した幼稚園)は、国1/2、都道府県1/4、区市町村1/4で、公立施設(保育園、認定こども園、幼稚園)は、全額区市町村負担となります。2020年3月までの半年間の「無償化」費用は、民間・公立を問わず全施設分を全額国費でまかない、制度変更に伴う事務経費は5年間国が負担するとしています。 |
E | 法案が成立したため、各自治体は条例の制定やシステム変更を行い、条例案は6月議会に提出される見込みです。 |
F | 特別区では、財政調整制度における基準財政需要額の算定項目に記載されることになり、2020年度の財政調整制度にかかわる都と特別区との協議で金額が明らかになる見込みです。 |
(2) | 問題点 | @ | 「無償化」費用の50%が年収640万円以上の高所得世帯に使われ、260万円以下の低所得世帯に使われるのは1%です。それにより高所得世帯と低所得世帯の格差が広がるのは必至です。また、待機児童が増加して入園できている世帯とできない世帯の格差も広がります。 |
A | 保育所の保育料は、応能負担です。しかし「無償化」により3歳〜5歳児は、保育料は事実上一律となり、幼稚園のように保育園の利用施設化が加速し、公的保育制度崩壊につながる恐れがあります。 |
B | 「無償化」の区市町村の費用負担は、民間施設の負担割合は1/4、公立は10/10です。したがって民間が多いほど区市町村負担は軽減され、公立施設が多いほど負担が増します。そのことと、政府が推進している保育の市場化路線と相まって、公立施設の廃止・民営化が加速する可能性があります。 |
C | 給食費の徴収は、特に低所得者の負担が重くなります。また、徴収事務や未納者への対応など新たな業務が生じ、保育現場や保育担当課の労働強化につながります。 |
D | 指導基準を満たしていない認可外保育施設も「無償化」の対象となり、保育の質の低下や保育制度の変質につながる可能性があります。 |
3.取り組みの基本
◎ | 「よりよい無償化の実現」「保育の質の向上」などの一致点に基づき、保護者、保育関係者、地域の労組などとの共同を広げ、要求実現の運動に取り組みます。 |
◎ | 「無償化」の実施を口実とした公立保育園の廃止・民営化を阻止するため、あらゆる運動に取り組みます。 |
4.具体的な取り組み
(1) | 各単組における取り組み | @ | 「無償化」の問題を中心とした学習・宣伝行動を推進します。 |
A | 「無償化」に伴う自治体の考え方を明らかにするための解明要請行動に取り組みます。 (別紙解明要求(案)を参考にして下さい。) |
B | よりよい条例の策定を求める自治体要請、自治体議会請願(陳情)に取り組みます。 |
C | 保育関係者、保護者、女性団体、労働組合などと懇談し、地域の保育を守る運動体の強化や再結成をめざします。 |
(2) | 都段階での取り組み |
@ | 市・区長会、市・区議会議長会に対する要請行動に取り組みます。 |
A | 関係する労働組合や地域団体等と懇談し、共同の取り組みを広げます。 |
(3) | 国に対する取り組み |
@ | 自治労連に結集し、政府・国会要請行動など、必要な運動に取り組みます。 |
以上