共通番号(マイナンバー)制度の中止を求め、住民を権利侵害から守る見解
2016年6月8日
東京自治労連中央執行委員会
共通番号制の個人番号の送付が2015年10月から始まり、2016年1月からは個人番号カードの交付が始まりました。当初から番号通知の発送の遅れや印刷漏れなどにより、3月18日現在で未交付が約218万件(全体の3.7%)となり、国は自治体での保管期限を2回にわたって延長を要請しました。
共通番号のシステムを統括するJ-LISのシステムトラブルが頻発し、申請数約1103万件、自治体送付済み977万件、交付済み約337万件(4月28日総務大臣記者会見)の約640万件が市町村に滞留する異常事態となりました。
さらに外国人、視覚障害者、高齢者など自らシステムにアクセスしてサービスの申請などができない人たちが置き去りにされ、強制ではないはずの個人番号記入を職場や金融機関から求められるなどの問題が次々と発生しています。窓口では通知番号の返戻作業や個人番号カードの発行などで住民の待ち時間が大幅に増えています。
こうしたもとで自治体の現場では、混乱する窓口、住民からの問い合わせ、J-LISのシステムトラブルなどへの対応で業務が激増しています。日常的に異常なまでの超過勤務や休日出勤が恒常化し、その対応として他職場からの職員応援態勢を急きょ行い、それでも不十分な状況のもとで、臨時・非常勤職員の緊急配置、労働者派遣法に基づく派遣労働者を緊急に導入するなどの事態が起こっています。
もともと政府は共通番号制度によって公平公正な社会が実現し、行政事務の効率化によって国民の利便性が向上すると説明してきました。同時に職場では、共通番号制度の導入によって業務の改善につながるなどの期待感が流布されてきました。
しかし実際に共通番号制度が実施されると、多くのトラブルと問題が発生し、住民と自治体職場に混乱をもたらしています。これらの問題を引き起こした原因は、導入当初から多くの問題点を指摘されていたにもかかわらず、十分な精査を行わず、政府が財界と一体となって拙速に導入したことにあります。
そもそもこの制度は民主党政権時に「社会保障制度の効率化と税の公平性確保」という限定活用をめざしたものでした。しかし安倍政権下で「社会保障制度、税制および災害対策に関する分野において利用の促進を図るとともに、他の行政分野および行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行わなければならない」とされました。「IT戦略」を成長戦略の一環として位置付ける安倍政権は、社会保障と税に限らず、健康保険証、職員証、キャッシュカード、図書館、病院のカード、クレジットカードなどありとあらゆる分野に拡大しようとねらっています。その上で2019年末には8900万枚の個人番号カードの交付を目論んでおり、2020年までにすべての国民が個人番号カードを持つ社会をつくろうとしています。
このことによって社会保障の各制度の受給抑制や保険料・利用料など負担の強化、徴税強化などに利用され、金融機関等の利用制限、ローン返済におけるトラブルなど多くの問題を抱える可能性が拡大されます。また、個人番号カードの顔写真による「顔認証システム」のデータを官憲が活用することになれば、プライバシー無視の監視社会が強まることも懸念されます。なにより多くの分野による活用が広がれば、それだけ情報漏洩のリスクが高まることは論を待ちません。すでに住民票・印鑑証明・戸籍の証明のコンビニ交付も2016年4月から217市町村で始まっており、いっそうの活用拡大の方向に動いていることは間違いありません。このことによる住民のプライバシー権、基本的人権の侵害が様々な形ですすむ危険を避けることは困難です。
さらに共通番号制度は以前の住基ネットとの大きな違いがあります。住基ネットの場合は自治事務であり、活用の可否は自治体が判断できました。しかし共通番号制度の附番と通知、個人番号カードの交付は法定受託事務であり、自治体に拒否権がありません。ですから自治体の果たす役割は極めて重要です。
これらをふまえれば、共通番号制度そのものが、個人のプライバシーをはじめとした住民の基本的人権を十分に守る保障のない制度であることは明らかであり、東京自治労連は共通番号制度そのものをただちに廃止することを求めるものです。
また、現実に進行している共通番号制度のもとでこれ以上の活用の拡大を許さないことが重要です。プライバシーの漏洩や人権侵害、保険料・税の過度な徴収を許さず、社会保障制度の十分な利用と安心できる住民生活擁護のために、制度施行後の住民と職場の具体的な実態を把握し、共通番号制度の危険性と問題点、政府・財界の狙いを明らかにしながら、職員と住民に示していくことが重要です。同時に業務のあり方を見直し、業務上の留意点を示し、日常業務の中でリスクを最大限抑える取り組みが必要です。
東京自治労連は、職場の実態をふまえ各単組と協力して、共通番号制度の廃止を求め、共通番号制度のこれ以上の活用拡大を許さず、現場でのリスク縮減に向けた取り組みをいっそうすすめるものです。
以上