国の「待機児童解消に向けて緊急的に対応する施策」に対する見解
2016年4月27日
東京自治労連中央執行委員会
3月28日、厚生労働省は「待機児童解消に向けて緊急的に対応する施策について」(以下、緊急対策)を発表しました。保育園に入れなかった保護者の匿名ブログ「保育園落ちた日本死ね」が話題を呼び、共感する保護者や保育現場などの声が広がったことで、政府にも相応の対応が迫られたからです。
しかし、この緊急対策は、予算措置もせず、安易な規制緩和を次々と打ち出し、現場にさらなる労働強化を強いるだけでなく、保育の質の低下を招くものです。ここでは緊急対策の問題点を指摘しながら、規制緩和による対応については実施すべきではないという立場から見解を述べます。
緊急対策は、規制緩和による定員増を目玉としています。保育士の配置や面積基準などにかかわる最低基準は児童福祉法の「児童福祉施設の設置及び運営に関する基準」に定められています。人員配置でいえば、0歳児3人に対して保育士1名(3:1)、1〜2歳児6:1、3歳児20:1、4〜5歳児30:1となっており、面積基準については、たとえば、0歳児は一人あたり3.3uと定められています。しかしこれはあくまでも最低基準であり、都道府県はこれを「常に向上させるよう努めるものとする」、児童福祉施設は「常に、その設備及び運営を向上させなければならない」と記載されています。東京には、革新都政の時代(70年代)に、低すぎる国の基準を補うため、東京都が独自の基準(都基準)を定めた歴史があり、1歳児の保育士配置は5:1と定め、0歳児の面積基準は一人あたり5uと定めました。この基準は廃止されましたが、市区町村の基準は現在もほぼそのまま踏襲されています。今回の緊急対策は、児童福祉法の基準を下回って定めるようにとしたことで自治体が独自に定めた基準を国の基準まで引き下げることを求め、一人でも多く子どもを詰め込もうというものです。
さらに、子ども・子育て支援新制度の施行に伴って認可施設となった小規模保育事業所(0歳児から2歳児までの子ども6人から19人までをマンションの一室や商店街の空き店舗などを活用して保育)の基準を緩和し、定員を22名まで増やし、3歳以上児も受け入れられるようにするとしています。
小規模保育事業所の基準は認可保育所よりも低く、3つある類型のうち、A型は認可保育所と同じように子どもの定員に対する保育士配置は100%有資格者となっていますが、B型は有資格者が1/2でよく、C型にいたっては一定の研修を受けた「家庭的保育者」(無資格者)でよいとなっています。施設によって基準が異なるという制度的な欠陥については、従前から指摘しているところですが、もともと緩和されている基準を施行後わずか1年でさらに緩和するというのです。
そして、3点目の施策は「一時預かり事業の活用」です。一時預かり事業は、就労を目的としない冠婚葬祭やリフレッシュなどの目的で子どもを一時的に預ける事業ですが、ここも待機児童対策に活用するというのです。その他、保育コンシェルジュの設置促進、企業内保育所のコーディネーターを配置するという項目もありますが、既存の施策で真新しいものではありません。
以上のように国の緊急対策は、単なる子どもの詰め込み策であり、予算措置もありません。これでは待機児童が解消されるはずはなく、保育の質を低下させ、子どもの安心・安全を脅かすだけです。
東京は全国の待機児童の4割が集中し、多くの市区町村がその対応に苦慮していることから、緊急対策を受けて区市町村がどのような対応をするか注目されています。東京新聞は0歳児の面積基準と1歳児の保育士配置基準の緩和について23区に聞き取り調査を行い、4月19日の紙面で公表しました。それを見ると、23区の大半が消極的で、面積では、独自基準を持つ15区のうち7区が「予定なし」と回答し、保育士配置では、独自基準のある21区のうち、9区が「予定なし」としています。しかし、「検討中」の区もあることから予断は許せません。
現在求められているのは第一に認可保育所を緊急に増設することで、率先して国や自治体の責任で公立保育所を増やすことです。そのために土地確保のための財政的な支援が必要であるとともに、保育所の設置・改修の補助、運営費の国庫負担の復活などが求められます。
第二に保育士の配置基準を引き上げ、専門性にふさわしい保育士の賃金労働条件の改善と、正規化を進めることが重要です。
待機児童の解消は保育の質の確保とセットで行わなければならず、その実現を東京自治労連は国、都、各自治体に求めるものです。また、すべての市区町村に規制緩和によって保育の質を引き下げる緊急対策ではなく、公的責任のもとで保育の質を確保した待機児童解消施策の実現を求めて運動をするものです。
以上