2017年東京都人事委員会勧告の概要と問題点
2017年10月6日
東京自治労連賃金共闘部
T.勧告の概要
1.月例給
(1)公民較差
民間給与 401,681円 公務員給与 401,607円(40.7歳)
較差 74円(+0.02%)
【昨年度】
民間給与 403649円 公務員給与 403,568円(40.9歳)較差81円(+0.02%)
(2)給与改定
公民較差が小さいため、改定を見送り
2.一時金
民間支給割合4.51月 職員支給月数4.40月 差0.11月
年間支給月数を0.10月分引き上げて4.5月(再任用は0.05月分引き上げて2.30月)
引き上げは勤勉手当に配分
3.実施時期
- 特別給の引き上げは、2017年12月の期末・勤勉手当から実施
4.退職手当制度
- 国の退職手当の見直しの動向を注視し、適切に対処していくことが必要。
5.今後の課題
(1) | 昨年の言及を踏まえ、引き続き行政職給料表(一)の1級・2級について、上位給とバランスを考慮した昇給幅への是正の視点から、適切な対応を検討。 公安職の給与について任用等の実態の検証を進め、給与制度あり方を引き続き研究・検討。 |
(2) | 能力・業績を反映した給与制度の更なる進展。 |
(3) | 生活給的、年功的要素の抑制。 |
6.人事制度及び勤務環境に関する報告(意見)
1) | 人材確保に向けた取り組み(採用を取り巻く環境の変化に即した対応) 民間の採用意欲が高い水準で推移し、人材獲得競争が激化している状況にあっても、有為な人材を安定かつ継続的に確保・育成していくため、これまでの採用試験・選考に関して分析・検証し、その結果を踏まえた対応を進めることが必要。 |
2) | 人材の活用と育成
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3) | 人材確保に向けた取り組み
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4) | 多様な人材の活用(高齢職員の活用)
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1) | 長時間労働の是正(長時間労働の現状と対応)
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2) | 「ライフ・ワーク・バランス」の実現に向けた取組(柔軟で多様な働き方の推進)
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3) | 職員の健康保持等の推進
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U.国・他の自治体の動き
1.人事院勧告や総務省の指導による東京への影響
(1)人事院勧告
給与 638円・0.15% (昨年708円・0.17%)
一時金 0.10月引き上げ(勤勉手当)、年間4.40月へ(0.10月引き上げ4.30月へ)
(2)総務省の「技術的助言」(全国人事担当課長・市町村担当課長会議 8月24日)
- それぞれの地域における国家公務員の給与水準との均衡にも十分留意。
- ラスパイレス指数は99.3で前年度より0・3%上回った。
- 55歳を超える職員の給料等の1.5%の減額措置を取っていない団体は695、55歳を超える職員の標準成績での昇給停止措置をとっていない団体は983ある。
- H18年給与構造見直しによる現給保障を廃止する予定がない団体が134あり見直しを求める。
- 個別にみても給与水準が高止まりしている団体や、不適正な給与制度になっている団体も見受けられる。こうした団体においては、制度・運用の適正化をはかること。
- 地方公務員数についてはH7年から22年連続して減少しているが、近年減少幅が縮小し、H28年の調査では、都道府県の総職員数が25年ぶりに増加した。行政の合理化、効率化を図り、地域の実情を踏まえつつ、自主的に適正な定員管理の推進すること。
- 総職員数は対前年比で約1000人減少して約274万人となり、1994年をピークに95年から22年連続で減少している。さらに定員管理において精査をすべく追加調査を行う。
- 会計年度任用職員の「フルタイムの職」「パートタイムの職」の取り扱いについて、1週間当たりの勤務時間が、常勤職員の4分の3を超える場合についても施行後はパートタイムの会計年度任用職員として任用する。
- 会計年度任用職員以外の独自の一般職非常勤職員の任用は避けること。
(3)退職手当削減問題
政府は、国家公務員の退職手当を3.37%(平均78万1千円)減額する方針を決め、来年1月施行を狙っていますが、衆院解散の影響で施行時期がずれ込む事が予想されます。
政府・与党は総選挙後、11月16日に臨時国会を召集する青写真を描いており、この中で法案提出が行われると思われ、その場合、都・区とも年末から年始にかけて賃金確定闘争後に退職手当削減提案が出されることが予想できます。
2.地方人事委員会の動き
総務省の「技術的助言」では、給与・定員の適正化について@各団体における給与改定に当たっては、それぞれの地域における国家公務員の給与水準との均衡にも十分留意すること。A不適切な運用をしている団体については、そうした団体をつまびらかにしていくなど、フルオープンモードとする。具体的な方法は今年度、来年度の調査研究会で考えていく。など国基準の地方への押し付けや、賃上げ抑制をすすめようとしています。
そのような中で、今年の地方人事委員会では、
(1) | 名古屋市(9月7日勧告)月例給344円(0.09%)、初任給を中心に1・2級のみ給料表の引き上げ、 |
(2) | 福岡市(9月11日勧告)月例給41円(0.01%)給与改定なし、 |
(3) | 京都市(9月13日勧告)月例給36円(0.01%)給与改定なし、 |
(4) | 北九州市(9月15日勧告)月例給361円(0.09%)初任給に配分 |
(5) | さいたま市(9月27日勧告)月例給82円(0.22%) |
(6) | 岡山市(9月28日)月例給439円(0.11%) 1級初任給700円程度引き上げと若年層に重点を置いた改定 |
6市とも特別給はいずれも勤勉手当を0.1月引き上げとしたものの、月例給は国を下回った勧告となる。
3.特別区人事委員会
今年度の勧告は、10月第2週に勧告を予定されています。
昨年度の特別区人事委員会は、公民較差584円(+0.15%)とし、初任給及び若年層は最高1,500円引き上げ、その他の号俸は行(一)の改定に準じて引上げ、再任用は一律400円を引き上げています。
V.私たちの運動の成果と勧告の問題点
1.一時金の引き上げは、春闘時からの私たちの運動の成果
4年連続の一時金引き上げがあったことは、官民一体の春闘、公務員賃金改善のたたかいを粘り強くすすめてきたことによる貴重な成果です。
例月給は、国を大幅に下回るわずか0.02%・74円と極めて小さい公民較差しか認めず、現行給料表の最低単位百円に満たないとの理由で切り捨てられ改定を見送られました。
勤勉手当のわずか0.1月引きの引き上げ水準では生活改善にはほど遠く、職場・組合員だけでなく地域経済再生を求める地域の仲間の期待をも裏切るものです。
私たち国民春闘共闘・自治労連・東京春闘共闘は、2017年国民春闘で賃上げの流れを本格的なものとし、大幅引き上げと最低賃金の引き上げにこだわり、職場を基礎に地域から官民一体で闘い、中央行動の成功を力に奮闘してきました。
東京自治労連も本部・単組・局支部一体で中央行動への参加、また地域春闘への結集を強めることによって、3月、4月段階での春闘相場に影響を与え、ベアの獲得に貢献してきました。
このことが制度賃金の一つである最低賃金の目安答申で引き上げ額全国平均25円、東京において26円増を引き出し、同時に公務員賃金改善を求める官民共同の闘いで一定の前進を築いたものです。
2.春闘の到達点と生活実態とかけ離れた勧告
今回の勧告は、月例給・一時金とも引き上げ勧告ですが、今年の春闘結果は以下の通りであり、実際の春闘相場から見ても不十分な引き上げ勧告といえます。
17春闘における賃上げ結果(最終回答:加重平均)は以下の通り。
○ | 国民春闘共闘 5,817円(2.07%) 前年同期比で6円減 |
○ |
連合 平均 5,712円(1.98%) 前年同期比で7円減 中小 6,125円(2.0%) |
○ | 日本経団連 7,755円(2.34%) ※加盟企業・大手総合平均 |
○ | 日本経団連 4,695円(1.84%)※加盟企業・中小総合平均 |
○ | 東京春闘共闘会議 5,418円 前年同期比124円減 |
17春闘の結果、国民春闘共闘や連合、日本経団連の春闘結果も2%前後の賃上げとなっています。ましてや連合の集計結果では、1962年から始まった春闘史上初めて中小企業が大手企業のベアを上回っています。
これらからも、東京都人事委員会による官民比較の結果との整合性が取れず、疑問は増すばかりです。
3.意図的に作りだされた官民較差均衡
(1)比較企業規模50人以上にしたことによる不当性
<事務系係員・主任・係長の50〜100人未満と100〜500人未満企業の4月給与支給比較>
(2)公務の実態に合わない比較対象職種
2018年度の職種別民間給与実態調査の概要では、およそ公務職場と関係のない、運輸業や宿泊業、飲食サービス業などの職種についても調査対象としています。これらの労働者は比較的低賃金で長時間労働を強いられている代表的な職種であり、事務職は極めて少数で、50人以上の事業所といえども数人の事務職しかいないのが実態です。同じ職種との比較であれば同等規模の人数のいる職場での比較がされるべきです。
(3)実態と合わない標準生計費
人事委員会の示した標準生計費は、1人世帯で147,400円となっていますが、月21日勤務、1日8時間労働時間で時給を換算すると一人世帯の時給は877円となり、最低賃金の958円を大幅に下回ってしまいます。また都内でアパートなどを賃貸し、光熱費など諸経費を含める「住宅関係費56,110円」では足りません。都人事委員会が示した標準生計費は極めて低水準で、東京地評や労働総研が算出した首都圏における「最低生計費」の20歳代独身のモデルである月額23万3801円(税込み)、東北地方「最低生計費」調査の同モデル月額23万2600円(税込み)からみて、現実とは非常にかけ離れているといわざるを得ません。
(4)本来は国を上回る大幅引き上げが自然
東京都人事委員会の示した「給与水準関係資料」で、「職員と国家公務員の給与水準」、及び「民間賃金の地域差」が示されています。これによると国家公務員100に対し都職員は101.6(昨年100.5、一昨年102.5)です。一方民間賃金の全国を100とすると東京都の民間賃金は122.8(昨年125.8、一昨年125.5)となっています。
この点からも今回の人事委員会勧告が示した官民較差と、人事委員会資料との乖離の整合性が疑われます。
(5)比較対象企業50人以上規模の調査数によって恣意的に操作できる勧告
比較対象企業規模について、「50人以上100人未満」事業所の割合が、12.6%(114企業)と依然と高い割合であり、意図的にマイナスを作りだしたものと言わざるをえません。
4.人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)について
東京都がすでに試行や本格実施に入ろうとしている、都庁版「働き方改革」を前提とした報告となっており、都の改革を追認する記述で中立機関としての役割をはたしていません。
(1)今後の人事制度のあり方について
「人材化育・活用に向けた取り組み」では、東京都の賃金労働条件や人間らしい働き方を見直して、人材確保をするという方向は見当たりません。人材確保に向けたセミナーやイメージアップなどと、「能力・業績」にもとづく人事管理を徹底することなどが中心となっており、都民生活を守るべき都の人材確保については実効性が乏しいといわざるを得ない。
さらに「多様な人材の活用」として、経験と専門知識を持つ再任用職員を、低賃金に据え置いたままフルに活用しようとしています。臨時・非常勤職員については法改正にともなう検討をすることとしており、均等待遇の実現に向けた労働組合側の取り組みが問われています。
(2)働き方改革と職員の勤務環境の整備について
東京都がすでに実施してきた20時退庁などの取り組みを評価し、年間超過勤務時間が多少縮減したとしていますが、朝残業の実態や不払い残業などについての調査は行っていません。見せかけの超過勤務縮減の裏に隠れた法違反の状況について明らかにする取り組みが求められています。
人事委員会は管理職の指示の徹底と、職員一人ひとりの努力に委ねた記述となっていますが、フレックスタイムやテレワークといった新たな手法を推奨していますが、これらの手法の導入によって長時間労働、不払い残業がなくなるわけではありません。
最も根本である厚生労働省通知である「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の徹底についてはまったく触れられていません。カードの導入などによる「出退勤時間」の管理は客観的に行われていますが、超過勤務申請は事前申告・超過勤務命令となっており、「労働時間」については相変わらず自己申告です。
「労働時間」の客観的な管理の徹底をガイドラインは求めており、そのための具体的な意見を述べるべきです。
人員の圧倒的な不足が原因であるにもかかわらず、ここに踏み込んでいないところに根本的な誤りがあります。
「職員の健康保持等の推進」についても同様です。ストレスチェックは集団分析が大切であるにもかかわらず、「自分では気づきくいメンタルヘルス不調を客観的に判断するため一次予防として有効」として、あくまでも個人の取り組みを前提としています。
「分析結果を職場環境の改善に生かしていくことが重要」や「長時間労働」が原因といいつつ、二次予防や三時予防についてもまわりの「援助等」職場で取り組むように述べているだけです。
根本的な原因である「労働時間」管理、人員増について触れていないことが実効性のない意見であることの原因だといえます。
5.国と同様に無責任な「再任用の給与のあり方」
今年度末の定年退職者から年金支給開始年齢が63歳に引き上げられるもと、雇用と年金の確実な接続に向け、「定年延長」を前提とした制度の拡充が求められています。人事院の今年の「報告」では、定年の引き上げに向けた検討をすすめるとしていますが、都の報告(意見)では、高齢者職員の活用として「全ての職層にわたり定年前に培った専門知識や経験を再任用により積極的に活用していく」に留まり、定年延長や具体的な再任用制度・給与の改善に向けたことを示していません。
年金支給開始年齢の引き上げに伴い、生活のためにフルタイムを希望する退職者が年々増加しているなかで、再任用職員が同じ仕事をしていながら年金支給の有無の違いで月額の収入に雲泥の差があることなど、同じ掛け金を支払ってきたのに矛盾があり、再任用職員を中心に憤りの声が上がっています。正規のフルタイム勤務を行いながら賃金は5割、6割である実態からみれば、再任用職員のモチベーションを維持するためにも支給率の改善は喫緊の課題であり、「定年延長」は早期に実施されるべきです。
6.臨時・非常勤職員を無視
昨年4月から多くの非常勤職員が一般職化されましたが、一般職非常勤職員は労働基本権が制約されており、人事委員会勧告はその代償措置として一般職非常勤についての給与勧告を行うどころか、今年も非常勤職員の官民比較さえ行っていません。
人事院勧告では、本年7月の「非常勤職員の給与に対する指針」に基づき「早期に改善」が行われるよう各府省を「指導」するとしていますが、報告(意見)では、臨時・非常勤職員制度に係る法改正への対応として、「H32年4月の改正地公法及び改正地方自治法の施行に向けて、都における臨時・非常勤職員制度のあり方について速やかに検討を進め、法改正への対応が図ることが必要」としています。
労働基本権を奪っておきながら、その代償措置の役割を果たさない人事委員会は、本来の役割を放棄したものといわざるを得ません。
とりわけ、地公法の適用を受ける一般職非常勤組合員の報酬額は、労働条件そのものであり交渉事項となります。人事委員会に対して、一般職非常勤職員の処遇改善を一層強く求めていく取り組みが必要です。
7.国に押し付けられた2年連続となる月例給据え置き勧告は不当
人事院、都人事委員会勧告が、民間給与実態調査に基づいた公民較差を精確に反映されているか疑問の念を抱かざるを得ません。
東京への大企業が一極集中している東京は、財務省・国税庁「民間給与実態統計調査」や厚生労働省「H27年賃金構造基本統計調査」を鑑みても、東京都の民間給与は、全国に比べて必ず高くなっていました。
「小泉構造改革」による公務員賃金抑制政策が推し進められ、2002年から2013年までの間、マイナスベアが続きましたが、2005年までは、国のベア勧告より都・区のベアが上回っていました。
さらに、2006年から比較対象企業規模を50人以上規模に引き下げたうえ、「50人以上100人未満」事業所の割合を操作することによって意図的にマイナスを作りだしています。
また、総務省は8月24日に全国人事担当課長・市町村担当課長会議を開催し、国の人事院勧告に準じた取り扱いを地方でも行うことや、民間と国の水準を上回ることのないよう「技術的な助言」の名のもとに実質的な強要を行いました。
2017年東京都人事委員会勧告は、私たちの闘いを反映した改善部分については当然である一方、人事委員会機能である「第三者機関」としての役割放棄に対し、厳しく声を上げて闘っていくことが重要です。