2017年人事院「勧告」の概要と問題点
4年連続の月例給・一時金の引き上げ!
春闘から続く公務・民間共同のたたかいの成果
物価上昇のもとで生活改善にならないベア、極めて不満!!
2017年8月8日
東京自治労連作成メモ
T.勧告の概要
1.月例給
(1)官民較差
民間給与 411,350円
公務員給与 410,719円(較差631円・0.15% 平均年齢43.6歳)
(2)給与改定の内容
- 1)4年連続のプラス勧告 若年層に厚く配分 その他は400円を基本とした引き上げ
・官民較差が631円、0.15%で俸給表のプラス改定を行い、初任給、若年層に厚く配分する。
(俸給456円 本府省業務調整手当119円 はね返り分56円)
・実施時期は2017年4月1日 - 2)俸給表の改善
・行政職俸給表(一)について、0.2%(400円)を基本に引き上げる
・行政職俸給表(一)以外の俸給表についても行(一)との均衡を基本に改定(指定職俸給表は改定なし) - 3)初任給の改善
・一般職試験(大卒程度)採用、一般職試験(高卒者)採用の初任給を1,000円引き上げる。
・その他の若年層についても同程度の改訂を行う。
1級56号まで、2級24号まで、3級8号までがプラス1,000円
1級57号から徐々に漸減し500円、2級25号から漸減し400円、3級9号から漸減し400円引き上げにまで下がる。 - 4)本府省業務調整手当
・給与制度の総合的見直しでの格差をさらに拡大する、本府省業務調整手当の引き上げ
「給与制度の総合的見直しを円滑に進める観点」として、本府省業務調整手当を引き上げ
本年度(2017年度) 係長級900円 係員級600円 4月に遡及して引き上げ - 5)初任給調整手当
医療職俸給表(一)について、医師の処遇確保の観点から所用の改定を行う。 - 6)再任用職員のベア改善
再任用職員のベア分は一律400円
2.一時金 支給月数0.10月引き上げて、年4.40月を支給
民間のボーナス支給割合は、年間平均4.42月 公務は4.30月で、0.12月分下回る
・4年連続のプラスで0.1月の増加とする。再任用職員も同様に0.05月引上げ
・今年度については12月の勤勉手当に充てる
・来年度以降については、0.05月分ずつ、6月と12月の勤勉手当に充てる。再任用職員も同様に、0.025月分ずつ6月と12月の勤勉手当に充てる。
3.給与制度の改正等について
(1)給与制度の総合的見直しについて
- @2018年度は、本府省業務調整手当について係長級は基準となる俸給月額の5.5%→6%相当額に、係員級は3.5%→4%相当額に引き上げる
- A行政職俸給表(一)6級相当以上で55歳を超える職員の俸給等の1.5%減額支給措置および俸給水準の引き下げの際の減額措置については、2018年3月31日を以て廃止する。/li>
- B昇給抑制の回復措置の実施
給与制度の総合的見直しの経過措置の原資を確保するために、2015年1月1日の初給を1号俸抑制した。経過措置の廃止等に伴って生ずる原資の残余分を用いて、若年層を中心に、2015年1月1日に抑制された昇給の回復を行う。2018年4月1日において37歳に満たない職員の号俸を同日に1号俸上位に調整する。
- 1)住居手当
住居手当について、受給者の増加の動向を注視しつつ、職員の家賃負担の状況、民間における住宅手当の支給状況等をふまえ必要な検討を行う。 - 2)再任用職員の給与
給与のあり方について以下をふまえ、必要な検討を行う
・各府省における円滑な人事管理を図る観点からの検討
・民間企業の再雇用者の給与の動向をふまえる
・各府省における再任用制度の運用状況等をふまえる
・定年の引き上げに向けた具体的な検討との整合性に留意する。 - 3)非常勤職員の給与
2017年7月に勤勉手当に相当する給与の支給に努めることなど、非常勤職員の給与に関する指針を改正した。早期に改正内容に沿った処遇の改善を行うよう、各府省を指導する。
U.2017人事院勧告の問題点
1.4年連続月例給・一時金の引き上げ 春闘時からの私たちの運動の成果
2017年人事院勧告で4年連続の月例給・一時金引き上げがあったことは、官民一体の春闘、公務員賃金改善の闘いを粘り強くすすめてきたことによる貴重な成果です。私たち国民春闘共闘・自治労連・東京春闘共闘は、2017年国民春闘で賃上げの流れを本格的なものとし、大幅引き上げと最低賃金の引き上げにこだわり、職場を基礎に地域から官民一体で闘い、中央行動の成功を力に奮闘してきました。
東京自治労連も本部・単組一体で中央行動への参加、また地域春闘への結集を強めることによって、3月、4月段階での春闘相場に影響を与え、ベアの獲得に貢献してきました。このことが制度賃金の一つである最低賃金の目安答申で引き上げ額全国平均25円、東京において26円増を引き出し、同時に公務員賃金改善を求める官民共同の闘いで一定の前進を築いたものです。
とりわけ昨年の引き上げには及びませんでしたが、引き続き初任給1,000円の引き上げは、私たちが一貫して闘ってきた要求が昨年に引き続き結実したものであり、同時に最低賃金の引き上げが公務員賃金の最低基準を引き上げる力につながったものでもあります。
2.生活改善もできず、現給保障廃止による賃下げを放置し、極めて不満な勧告
(1)公務員賃金の10年間の賃下げを回復できず、景気回復にもつながらない
引き上げは昨年の引き上げを下回って極めてわずかであり、この間の物価の上昇を加味すると実質生活水準の低下に歯止めをかけるにはほど遠い水準です。さらに最低賃金の目安答申でも3%の引き上げとなっているにもかかわらず、0.15%の引き上げにとどまったことは景気回復を主導すべき国が、その役割を果たしていないと言わざるを得ません。また、この間都区において4年前までの10年間で1人につき年間90万円も削減されてきたことから見ればきわめて不満な改定といわざるを得ません。
2016年平均の消費者物価指数は前年と同様でありこの数年間の物価上昇にも見合わない引き上げ額です。
総務省の家計調査では2016年平均の二人以上の世帯(平均世帯人員2.99人,世帯主の平均年齢59.2歳)は、前年に比べ名目1.8%の減少となった。また,実質では1.7%の減少と,3年連続の減少となっています。
国民全体の家計が逼迫しているもとで、すべての労働者の賃金引き上げこそが景気回復の道であり、公務員賃金が民間賃金の規範であることからみれば、極めて問題であると言わざるを得ません。
(2)給与制度の総合的見直しの経過措置廃止による賃下げを放置
給与制度の総合的見直しの経過措置で現給保障してきましたが、経過措置の廃止によって、引き下げられた給与に切りかえられる職員が生まれます。これに対する対策についてはまったく言及していません。当該職員の生活を脅かすものであり、許せるものではありません。
(3)無年金となる職員の生活困難を先延ばしにした勧告
今年も再任用職員の給与改善は全体の官民格差分しか行われませんでした。2018年3月31日に退職した職員は、63歳に達するまでは無年金です。再任用の2年間は再任用給与のみでの生活を余儀なくされます。年金収入がまったく閉ざされるもとで、現役当時の概ね半分の水準の賃金での生活となり、極めて困難であることは明らかです。私たちは一貫して定年の延長を要求して闘ってきました。
人事院は今年の官民比較調査で定年退職後の雇用者の賃金水準を調査し、定年退職前の給与の減額の実態や内容について調査をしています。また、「骨太方針2017」では「公務員の定年の引き上げについて、具体的な検討をすすめる」としました。
今年の人事院勧告では「定年の引上げ」に向けて、「人事管理を図る観点」から、「民間企業の再雇用者の給与」、各府省の「再任用制度の運用状況」をふまえて検討するとしました。今年度退職者から年金の支給開始年齢が引き上げられるもとで、一刻も早く「雇用と年金の接続」を実現するために、今年の人勧でその改善が強く求められていました。しかし人事院も内閣人事局も先送りにしました。
3.政府与党の経済成長戦略の目標にも及ばず、民間賃金引き上げにも及ばない
- @「骨太方針2017」ではアベノミクスが経済の好循環を生み出しているとしながらも、日本経済は「潜在成長力の伸び悩み、将来不安からの消費の伸び悩み、中間層の活力低下」が課題だと述べ、「可処分所得の拡大」として、最低賃金の全国加重平均が1,000円になることを目指し、今年は3%の引き上げを行いました。しかし、経済成長3%については三度先送りしています。この点からみても公務員賃金の引き上げ、すべての労働者の賃上げは待ったなしです。しかし、物価の上昇、消費税の増税にも、さらに民間大手の賃上げ水準にも及ばない改定であり、経済成長につながるはずもありません。
- A公務員賃金は国家公務員、地方公務員のみならず、公務の外郭団体など公務公共関係職場など720万人を超える労働者に影響し、さらに中小企業など民間の労働者の賃金も強く影響を与えます。公務職場が次々アウトソーシングされるもとで、民間化した公務関係職場の労働者の賃金に直接影響します。わずかな引き下げでは、これらの職場の労働者の生活改善にもつながりません。
4.能力・成績主義強化、本府省のみ優遇は不当
今年も一時金の引き上げ分は、すべて勤勉手当に上乗せされました。この間の一時金引き上げは一貫して勤勉手当に上乗せされ、「能力・業績」主義強化の材料とされてきました。一時金そのものが賃金の後払いであり、切実な生活給であるにもかかわらず、業績評価によって切り下げ可能となる要素を拡大することは認められません。
さらに再任用職員についても同様に、勤勉手当に上乗せし、再任用職員に対する「能力・業績」主義をいっそう強めることは許せるものではありません。
また、同じ公務員として働いているにもかかわらず、昨年に引き続き霞ヶ関の本府省の業務調整手当のみを拡大し、同じ東京の他の国家公務員や地方の国家公務員との格差をさらに広げることも許せません。今年の中央最低賃金審議会で示された最賃の目安答申においても地域格差は広がっており、これをさらに広げるものといわなければなりません。
5.非常勤職員の改善は第一歩を踏み出したばかり
今年は人事管理運営協議会幹事会申し合わせ(2017年5月24日)によって、「期末手当・勤勉手当を支給するものとする」とされました。人事院はこれにそって「各府省を指導」すると述べるにとどまっています。また、「公務員人事管理に関する報告」では「同一労働同一賃金の議論をふまえ、慶弔に係る休暇等について検討」するとして、一歩前進しています。東京の自治体の最低賃金は、東京の最低賃金水準すれすれの状況が毎年続いています。公務が率先して賃金水準を引き上げ、官制ワーキングプアの解消を行うべきところです。ましてや4割に及ぶ非常勤職員・臨時職員に本格的・恒常的業務を担わせており、非常勤職員の抜本的な処遇改善があってしかるべきです。
6.意図的に作りだされた官民較差均衡
- @比較企業規模50人以上にしたことによる不当性
- A公務の実態に合わない比較対象職種の拡大
2013年の民間調査から、これまで対象としてこなかった職種についても調査対象としました。具体的には、警備保障会社、ビルメンテナンス会社、労働者派遣会社などサービス業を対象とし、業務委託契約にもとづいて仕事をしている常勤の警備員や清掃作業員、運転手などの職場も新たに調査対象に加えました。これらの職場の比較職種は事務職です。これらの職場での事務職は極めて少数で、50人以上の事業所といえども数人の事務職しかいないのが実態です。同じ職種との比較であれば同等規模の人数のいる職場での比較がされるべきです。
- B実態と合わない標準生計費
人事院の示した標準生計費は、5人世帯は増加していますが、4人世帯は下がっています。しかもその標準生計費は極めて低水準で、東京地評や労働総研が算出した首都圏における「最低生計費」の20歳代独身のモデルである月額23万3801円(税込み)、東北地方「最低生計費」調査の同モデル月額23万2600円(税込み)からみて、現実とは非常にかけ離れているといわざるを得ません。
- C春闘結果とも整合性がない
17春闘における賃上げ結果(加重平均)は以下の通りである。
国民春闘共闘の集計による2017春闘結果も、連合の春闘結果も2%台の賃上げとなっています。これらから見ても人事院による官民比較の結果との整合性が取れません。
- D政府統計の賃金上昇率との関係でも矛盾する
今年の2月22日発表の毎月勤労統計調査で2016年の結果確報を明らかにしています。ここでは1人平均の賃金について、現金給与総額の前年度比は0.5%増で、そのうち一般労働者は0.9%増、パートタム労働者が0.1%増となっています。所定内給与は0.2%増で所定外給与が前年度比0.6%減となっています。全体の給与の引き上げ額から見ても、極めて低すぎる引き上げ額といわざるを得ません。
7.公務員人事管理に関する報告について
「公務における働き方改革の意義・必要性」として、「行政サービスの質を維持・向上させる」ためとして、「公務を構成する人材の質の確保」、60歳を超える職員を含むすべての「職員の十全な能力発揮」が重要としています。
- (1)人材の確保及び育成
人材を確保するために、女性、地方大学・私立大学、専門職大学院生、技術系の人材、民間人材を対象に「周知・誘致活動を充実させる」としています。つまり友好な人材確保策は明確にされていません。
集まった人材を「能力・実績」にもとづいて人事管理し、評価結果を任用、分限、給与等へ反映し、苦情があっても適切な解決を図ることとしています。
その上で人材育成はOJT、OFF-JTなど研修の充実に努めると言っています。あくまでも「能力・実績」主義にもとづいて、従来の枠を出ない人材育成であり、実効性が乏しいと言わざるを得ません。 - (2)働き方改革と勤務環境の整備
「長時間労働の是正の取組」と称し、超過勤務の縮減のためには「事前確認等を含め、部下職員の業務管理、進行管理等のマネジメントを適正に行うことは、効果的・能率的な業務運営の基礎となるものであり、まずは、こうした取組を徹底し各課室などの職場におけるマネジメントの強化を図る」としています。つまり、管理を徹底した上で「業務の削減・合理化」「業務改革」に取り組み、それでも「なお恒常的に長時間の超過勤務を行わざるを得ない場合には、業務量に応じた要員が確保される必要がある」としています。
「長時間労働の是正のための制度等の検討」として、臨時国会で提案されようとしている「残業代ゼロ法案」などの労働法制改悪をふまえて検討をすすめるとしており、民間同様の労働時間の規制緩和が検討されることも危惧されます。
「仕事と家庭の両立支援の促進等」として、育休を男性が取得するなどの「男女問わず両立支援制度」の活用や、さらにはフレックスタイム制の活用を促進するとしています。「非常勤職員の勤務環境の整備」については、すでに述べたところです。
そもそも公務の仕事は住民の多様な願いに応えられる柔軟な対応が必要です。そのためには時間的にも精神的にもゆとりが必要です。長時間過密労働、不払い超過勤務が蔓延している根本原因である、充分な人員の確保、超過勤務予算の充分な措置がないという点にメスを入れない議論であり、実効性のある、説得性のある報告とはいえません。 - (3)高齢層職員の能力及び経験の活用
年金支給開始年齢の引き上げに伴って、人事院は2011年に「意見の申出」で定年延長を打ち出しました。ところが政府は当面再任用で対応するとして、今日に至っています。人事院は今年のこの「報告」では、定年の引き上げに向けた検討をすすめるとしています。
「年齢別人員構成の偏り」「在職期間の長期化」「退職後の生活への不安」「政府における検討」(骨太2017)など、状況の変化を挙げた上で、「定年の引き上げに向けた本院の基本的な考え方」を示しました。
そこでは、「採用から退職までの人事管理の一体性・連続性が確保され、かつ、それぞれの職員の意欲と能力に応じた配置・処遇も可能となることから、定年の引き上げによって対応することが適当と考える」と述べています。最後に「定年の引き上げに係る人事管理諸制度の見直し」について、論点の整理を行うなど検討をすすめるとしました。
これらは「骨太2017」で公務員の定年延長が述べられたことから、次期は別にして本格的に定年延長を検討する状況が生まれていることを示しています。今後の運動で注意しながら実現を迫っていくことが求められています。
8.全国に比べて高い東京の水準に見合う、賃上げをめざし、安心して働ける賃金水準を求めて闘おう
今勧告は極めて不十分な内容ではありますが、私たちのたたかいで築いた給与改善勧告を、東京においてはいっそう改善させることが重要です。さらにいっそう官民共同を発展させて、都区人事委員会、対当局向けたたたかいへ、今後の意思統一を行うことが重要です。
とりわけ人事院勧告での調査で、給与制度の総合的見直しを打ち出した時までは地域別の較差を明らかにしていました。その時の調査で東京は全国に比べて民間給与が必ず高くなっていました。大企業が集中する東京の現状を見れば当然といえる結果です。今年の人事委員会勧告でも全国に比べて大幅な賃上げが勧告されて当然です。しかし昨年の東京都人事委員会の勧告は、0.02%・81円の較差とし、給料表額の引き上げを行いませんでした。これまでも幾度にも渡って全国がマイナス格差の時に、東京都はプラスの格差があったにもかかわらず、東京都人事委員会の勧告ではマイナス勧告を行ってきた経過から見れば、政治的・意図的な勧告であると疑わざるを得ません。春闘の結果から見ても東京では全国に比べて、より大きな格差が存在することは明らかです。都・区人事委員会に正確で納得性のある調査結果にもとづいた、大幅賃上げにつながる勧告を求めることが重要です。
内閣人事局が今後明らかにするであろう退職手当にかかるたたかいは、都区においても重要課題となります。東京の実態を踏まえた検討をするべきであり、今後、都区人事委員会、都区当局に対する重要なたたかいがはじまります。
さらに高齢期雇用制度の改善については、来年4月から年金支給開始年齢が63歳になることから、緊急に求められる課題です。東京や特別区、市町村における再任用給与の水準は極めて低くなっています。定年延長に至らない場合においても、給与面における改善、とりわけ無年金となる再任用職員の給与の抜本的改善は急務であり、今後のたたかいにゆだねられています。
当面、今人事院勧告の内容についてすべての組合員と共有し、今後の闘いの意思統一を行い、秋の確定闘争勝利へと結びつけていきましょう。
以上