超過勤務縮減・不払い残業根絶に向けた、実効ある36協定締結の取り組み方針
2016年6月8日
東京自治労連 第31回中央執行委員会
はじめに
公務員総数・総人件費削減政策のもとで、正規職員の非正規化や自治体職場の市場化と業務の民営化が加速してきました。仕事の量を度外視した人員削減がすすみ、過密労働が常態化しているなかで、職場では委託や派遣など複雑な雇用形態の労働者が働くこととなり、異常な長時間労働や不払い残業が後をたちません。
このよう中で、いくつかの自治体職場には労働基準監督署による臨検(立ち入り検査)が行なわれ、長時間労働の是正や36協定の締結の指導が行われています。
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めることを目的とし、第32条で使用者が労働者を「1日8時間、週40時間」を超過して労働させることを禁じています。公務員の勤務条件も、条例で定める場合においても労働基準法で定められた基準以上のものでなければなりません。しかし、当局が超過勤務手当を抑制しようとする中で、結果的には労働時間の上限規制は存在していないともいえる現状となっています。
東京自治労連は、仕事だけが増え続けて余裕のない人員配置や予算編成により長時間労働が恒常化し、メンタル疾患など健康を損なう職員が急増している中で、昨年7月「2015超過勤務縮減・不払い残業根絶に向けた取り組み方針」を確立し、長時間労働や不払い残業問題、メンタルヘルス対策と、当局の責任と役割を追求してきました。
本方針では、超過勤務実態の把握と改善のための協議を前進させ、超過勤務命令を違法状態から改善するための実効ある36協定締結の取り組みを具体化するものです。
1.超過勤務縮減と不払い残業根絶にむけた各単組の取り組み
足立区職労が、2014年春に実施した職場実態アンケート調査では、95%の保育士が早朝・夕方・昼休み・休日・持ち帰りと様々な形態の不払残業を行っている実態が明らかになりました。このままでは、我慢も限界、働き続けることが困難だという声が多くの保育士から労働組合に寄せられたことを受けて、超過勤務実態調査の記録を根拠に、人事委員会に「勤務条件に関する措置要求」、労働基準監督署に「法令違反の提訴」等を行うことを前提に第三次要求書を提出し、交渉を行った結果、当局から実績保障に基づいた超勤未払い分(2014〜2015年度の遡及)を清算するとの回答を引き出しました。
さらに、不払残業の原因となっている人員不足と業務量の見直し等の改善要求交渉(16年4月12日)では、当局から2016年度当初の正規職員及び非常勤職員の不足分については、人員確保が出来次第、随時補充を行う。事務量の軽減に向けて具体的に対応すべき課題の洗い出しを行うなどの回答を引き出しています。
墨田区職労が2015年に全職場を対象として実施した残業アンケート調査は、職員総数の約27%・507名の職員がアンケートに協力しました。残業時間総実数(約18,000時間)に対し、超過勤務手当を申請した時間数は約11,000時間(約60%)となり、約40%に相当する時間数(約6,900時間)が未請求となっていることが判りました。
また、アンケートの自由意見欄の記述には、@上司から、超勤手当予算が限られている。超勤予算が底をついたなどと言われ申請できないB職場の雰囲気として、残業をしても超勤手当を申請しない雰囲気があるC上司の言明により、残業の内容によって超勤手当を申請してもよい仕事と申請できない仕事とに振り分けられているD19時前の残業は、申請してはならないと上司に言われている。など職場の実情が浮き彫りとなりました。
墨田区職労は15年7月16日に要求書提出し、@超過勤務の実態に関する全庁的な調査(退勤打刻後の勤務を含む)を、早急かつ確実に実施すること。A上記1の実態調査の結果、明らかになった不払い残業代については、該当職員に対し、労働基準法第115条に基づき、二年間遡及して全額を確実に支払うことなどを柱に要求闘争を継続させています。
2.36協定を締結しなければ超過勤務が出来ないことを徹底的に周知させよう
(1)36協定って何だろう
本来、法定労働時間(1日8時間1週40時間)を超えて労働をさせたり、休日に労働させることは労働基準法違反となります。使用者は、法定労働時間を超える時間外労働を命じる場合、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使間で書面協定を締結し、人事委員会又は所轄労働基準監督署長に届け出ることではじめて時間外勤務が認められます。この労使協定を36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定「さぶろくきょうてい」)といいます。
しかし、36協定を結んでも、使用者の勝手な都合で、限度なく、何時間でも何日でも締結して(労働時間を延長して)良いというものではありません。同協定においては、「1日」「1日を超えて3ヵ月以内の期間」「1年」のそれぞれについて、延長することができる時間を定めることになりますが、この「1日を超えて3ヵ月以内の期間」「1年」については、時間外労働の限度に関する基準(平10.12.28労働省告示154号、最終改正 平成21.5.29厚生労働省告示316号)にて、延長できる限度が定められています。また締結した36協定の時間を、突発的・臨時的に延長する必要性がある場合は、その都度、事前に労使協議が必要です。
36協定の延長時間限度表 |
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期間 | 1週間 | 2週間 | 4週間 | 1カ月 | 2か月 | 3カ月 | 1年 |
通常 | 15時間 | 27時間 | 43時間 | 45時間 | 81時間 | 120時間 | 360時間 |
さらに、育児又は家族介護を行う職員が請求した場合、1ヶ月24時間、1年について150時間を超えて勤務時間延長をさせてはならないこととされています。(育児・休業法第52条)
時間外労働時間には限度が設けられていますが、法定労働時間は、守るべき労働条件の基本であり、その例外である時間外勤務・休日勤務は限定的に認められるものです。
(2)本庁職場を含む全ての職場で36協定の締結が必要です
地方公務員は、36協定を結ばなくても時間外勤務ができると誤って考えている職員も現実にはいます。また、当局がその根拠としているのは、労基法33条3項「公務のために臨時の必要がある場合は、労働時間を延長し、休日に労働させることができる。」との規定です。公務員の残業は、全て「公務のため」であり、「臨時の必要」かどうかは当局・上司が判断するので、36協定なしに実質的に何時でもどんな仕事でも残業を命令できると都合よく解釈されている例もあります。
しかし、実際の残業の内容は、いつも「臨時の必要」とは限りません。多くは恒常的な業務の繁忙の必要性から生じる残業であり、「臨時の必要」とはいえません。
また、地方公務員法では、労基法36条の適用除外を定めていません。したがって全ての自治体職場において36協定締結が必要となります。(※資料2参照)
公務のために臨時の必要がある場合は超過勤務や休日出勤をさせても労働基準法違反にはなりませんが、「臨時」とは火災や震災など避けることのできない事由のことを指します。
3.職場の実態を直視した実効ある36協定の締結をめざしましょう
基本的には、法制度上、36協定締結無しに超過勤務はできません。36協定を締結しない、あるいは、締結した協定の範囲を超えて労働させた場合には、労基法第119条に則り「6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処されます。
しかし、安易な36協定締結では、不払い残業の増加や超過勤務の強要の事態を招くこととなります。したがって、以下を踏まえて、不払い残業・過重労働の根絶へ向けた実効ある36協定締結をめざすものです。
(1)組織拡大強化の視点で36協定の取り組みをすすめよう
労働基準法第36条では、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合、または過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定を行う」としています。
異常な長時間残業をなくして安心して働きやすい職場づくりを目指すためには、36協定を締結することが不可欠であり、そのためには当該事業場毎の臨時・非常勤職員を含む職場過半数を組織することが求められています。
また、時間外労働・休日勤務の問題は、全ての職員にとって最も身近な課題です。個々の職場・個々の組合員の業務状況の把握なくして実効ある協定締結はできないことから、より職場・組合員の要求を踏まえた労働組合活動としていく取り組みとして位置付けていくものです。
36協定締結に関わる協議は、「適法な交渉」であり、勤務時間内に有給で労使交渉を行う課題となります。支部・分会段階での定期的な労使交渉が必要であり、時間内組合活動が見直された中で、 この課題を有効に活用して、支部・分会の日常活動を強化していくものです。労働組合の組織拡大・強化の取り組みとあわせてすすめましょう。
(2)36協定締結に関わる具体的な対応
- 1)協定事業場範囲は全職場とすること〜例外を認めない
旧16号事業所(労働基準法別表第一に掲げる事業以外の官公署の事業場)を含めて、全ての職場を36協定締結の対象とします。 - 2)36協定は、事業場単位で締結し届け出ることが義務付けられています
36協定は、法によって事業場ごとに協定を結ぶこととなっており、労基法規則第17条に基づく様式9号等によりそれぞれの事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出る必要があります。
出張所・保育園・土木事務所などの出先職場は事業場にあたります。また、本庁内の各職場も原則として1つの事業場にあたりますので、36協定の締結を行うことができます。
各職場の具体的な業務内容と執行体制に基づいて必要な超過勤務時間数は生じるものであり、協定締結職場の単位を出来るだけ小さくし、目の行き届く実効ある協定とすることが重要です。 - 3)事業場の協定範囲は管理職の配属有無など、職場実態に合わせた範囲で締結することも大切です。
行政の施策を中心になって推進している総括係長や係長が労働組合員の場合もあり、36協定締結時の「使用者」として相応しくないと考えられます。
本来、所属職員への時間外勤務命令や休日勤務命令、週休日の振り替えなどに関する職務分掌や予算権限は課長職以上の管理職に与えられており、事業場の協定範囲は裁量権のある管理職が配置されている最小限の職場・課の括りで締結することが妥当です。
尚、市長や区長など自治体の首長は、実際に本庁内の各職場や、出張所など出先職場などの超過勤務実態に目が行き届かないため、「使用者」として締結することは相応しくありません。 - 4)事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、民主的な手続きで労働者の過半数を代表する者を選ぶことが大切です
各事業場において労働組合員が過半数割れしている場合は、各事業場の労働者の過半数の代表を選出することが必要です。職場代表者の選出に当たっては、投票や挙手などによる民主的な手続きを行うことが求められています。これは、使用者側による代表選出への関与を防止し、真の労働者代表を選び正当な労使間の協議を実現させるという点からも極めて重要となります。
そのためには、先ず「36協定を締結するにあたって過半数代表者を選出することが必要である」ことを事業場内に通知し、その上で、期日を指定して立候補者を募り、立候補者が居た場合は、その立候補者で良いかどうか、投票や挙手などで信任を問います。
立候補者がいなければ、同様に期日を指定して、適任者と思う人を推薦し、推薦された人に対して同様に投票・挙手などで信任を問います。
これらの手続きを行うときは、各単組が先頭に立ち、職場組合員がイニシアティブを握って行うことが大切であり、同時に職場組織の確立・強化をすすめていきます。 - 5)現時点で限度時間を超えている職場について、協定導入前に定数増など超過勤務縮減対策を措置すること
現状において、時間外労働の限度に関する基準の限度時間数を超えた超過勤務実態が存在する中で、この問題の解決無しには協定締結は行えません。定数増、業務見直しなど、必要な措置をあらかじめ実施することは最低限の条件となります。 - 6)協定締結目的として過重労働対策を労使確認すること
36協定締結に関わる協議は、実効ある超過勤務時間縮減対策の協議と切り離すことはできません。したがって、過重労働対策を36協定締結目的として労使確認を行い、超過勤務時間縮減対策委員会の設置など、定期的かつ実効ある労使協議の場を確保します。 - 7)締結時間数及び事由についての全ての職場で十分な職場討議と対応方針案を策定します
具体的な締結時間数や時間外勤務事由については、職場実態を十分踏まえて設定することが必要であり、この問題での職場討議を重視します。
また、前段で記載した通り、労基法33条3項「公務のために臨時の必要」が認められないものとして、特に事由を限定せず@業務の都合上必要な時、A業務上やむを得ない時、B業務繁忙な時、C使用者が必要と認める時、D年間を通じて適用されることが明らかな事由などが挙げられます。
例えば、所定労働時間外の朝礼・夕礼などミーティングや研修・会議、制服への着替え、制服から私服への着替え時間、昼休み中の来客当番や電話番、保育日誌や報告書などについて、しっかりと労使協議を行い、労働組合の合意のもと事由を定め文書に残すことが大切です。 - 8)実態把握のシステム確立します
36協定締結内容の実効性を確保するとともに、不払い残業を防止するために、職員の超過勤務時間数及び事由について日常的に把握できるシステムが必要です。
定期的な当局からの情報提供はもとより、不払い残業防止を目的とした組合員アンケートの定期実施など必要な対応を行います。調査結果と対応方針を踏まえて、実効ある協定とするための要求書を策定し、労使協議をすすめます。
また36協定の更新は、労基法施行規則第17条では、「36協定の有効期間について自動更新の定めがなされている場合には、更新の届出は、当該協定の更新について労使双方から異議の申出がなかった事実を証明する書類を届け出ればよい」(S29・6・29基発第355号) とされています。
しかし、1年毎に合意した36協定に抵触する労働時間や休暇取得状況など、事業所(係)単位の勤務実態を洗い出し、労働時間管理が適正に行われていたかなど労使交渉で確認し合ったうえで、36協定を締結します。また、更新の際に合意できなければ超過勤務をさせられません。
36協定は労働者保護のためにあり、保護できる協定とすることが前提であり使用者の都合の良いように扱わせてはなりません。
〔資料1〕 2015超過勤務縮減・不払い残業根絶に向けた取り組み方針(抜粋)
1.超過勤務時間数に対する基本的な考え方- (1)超過勤務時間数に対する要求の基本
労働基準法は、1987年に週40時間勤務制となり、猶予期間を経て完全週休二日制が導入されました。これによって、年間所定労働時間数は約1950時間となり、年間20日の有給休暇取得によって年間1800時間労働となります。
したがって、年間1800時間労働は時間外勤務ゼロを前提としており、国際的にも日本の長時間労働は異常な事態といえます。
しかし、現実を踏まえる中で、自治労連は時間外勤務時間数について、以下の要求を確立しています。ア)年間150時間(年次有給休暇付与時間数相当)、イ)1ヶ月20時間(1日1時間相当)、ウ)週5時間(1日1時間相当)、エ)1日2時間。 - (2)「過労死」防止に不可欠な実超過勤務時間数の月45時間以内厳守
「過労死」は大きな社会問題となっており、無数の裁判闘争をはじめとして、労働者・労働組合の運動は粘り強くすすめられてきました。
2.超過勤務は必要最小限でなければならないことを自治体当局や全ての労働者が「自覚」することが大切です
長時間過重労働対策や不払い残業を是正させていくには、自治体当局が「過重労働による健康障害や過労死を生じさせない」という方針を確立し、長時間労働を防止していく庁内風土をつくることと、不払い残業は「犯罪」と同じ行為であることを当局や管理職がしっかり認識することが重要です。
また、ICカードで出退庁管理を行っている職場でも、夕刻にカードを通させた後に残業したり、終業時刻から一定の時間が経過してからしか時間外労働の算定時間としてカウントしていなかったなど労基法の形骸化が顕著になっています。
職員の意識改革も必要です。超勤を請求しないことなどによって、職場に法律が通用しない状況を蔓延化させ、管理職の管理監督義務の不履行を免罪させることとなり、定時の勤務時間内の適正な仕事量の把握も出来なくなってしまいます。
長時間労働や不払い残業を撲滅するためには実態の把握とともに、法律に基づいて仕事をすべき職員や管理職一人ひとりが「法令遵守」の意識を高めていくための、学習・啓発活動の取り組みが大切です。
労働組合として、超過勤務の割増賃金の支払いはもちろん、長時間労働の身体への悪影響や、不払い残業は法律違反の「犯罪」であることを徹底して周知させ、それらの原因となっている慢性的な人員不足の解消をはじめ、勤務時間の管理、定期的な休暇・休憩の確保など徹底を図ることを自治体当局に求めていくことが重要です。
3.「4・6通知」を活用し労働時間の正確な管理は当局の責任であることを強調し、下記取組みを強化しましょう
労基法では、使用者の労働者の労働時間管理を義務付けていますが、実際には、出退庁記録簿や超過勤務申請簿など労働者が自己の勤務労働時間を自主的に申告し、使用者が労働時間を適切な管理を 行ってないことがあります。そのため実際の勤務時間と乖離し、過重な長時間労働や超過勤務による割増賃金の未払いなどの問題が生じていることから、厚生労働省は、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置として、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(2001年4月6日基発第339号)を通知しています。
使用者には、労働時間を適正に把握する責務があり、そのための労働時間の適正な把握を行うために、@管理職自ら、始業・終業時刻を確認・記録することAタイムカードなどの客観的な記録を基礎として確認し記録する。ことを原則的な方法として示しています。しかし、管理職(指揮命令する直接の上司)が、部下に「あなたは、今、○時○分に仕事を終わりましたね。」と、一人ひとり目視確認することは不可能です。事実上、「タイムカードやICカードなどの客観的な記録を基礎として確認し、記録すること」が労働時間を管理することが現実的と言えます。
また、自己申告制により時間外労働を算定する場合は、@自己申告制を導入する前に、対象労働者の労働時間の実態、適正な自己申告についての説明を充分に行うことA自己申告の労働時間と実態が合っているか調査することB自己申告を阻害する目的で、時間外労働の上限を設定したり、仕事があるにも関わらず残業時間削減の通達を出すなど適正な申告を阻害してはいけないことを記述しています。さらに、時間外労働手当に係る予算枠や、時間外労働時間の削減のための通達など労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合は、改善のための措置を講ずるよう謳っています。
いずれにせよ、4・6通知では、労働時間の適正な把握や労働時間管理の適正化は、使用者に責務があり、特に労務担当役員、労務部長、総務部長等労務管理を行う部署の責任者は、労働時間が適正に把握されているか、過重な長時間労働が行われていないか、労働時間管理上の問題点を把握し、どのような措置を講ずべきかなどについて検討し是正をすべきことを明らかにしています。
- (1)労働時間短縮推進委員会(仮称)を設置させて労使協議の場をつくろう
「4・6通知活用」で記述したように、当局・使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。
各職場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じて「労働時間短縮推進委員会」や「労働時間等設定改善委員会」など労使協議組織を活用し労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うよう4・6通知で求められています。
そこで労働時間管理の現状の把握と詳細な提示、労働時間管理上の問題点の検討、超過勤務の生じる理由の検討、及びこれらの解消策を検討など「長時間労働・不払い残業防止のためのガイドライン」を作成させて、超過勤務縮減や不払い超過勤務手当根絶に向けた取り組みを前進させましょう。
また、方針やガイドラインの決定には、労働組合の意見を十分反映させたうえで、庁内での合意形成が重要となります。また、あくまでも労働時間管理は、管理者の責任であることが大前提であり、第一義的には当局に直接労働時間の把握・管理を行わせることが基本です。
残念ながら、自治体職場では労働基準法の適応外などと誤った認識や風潮があり、現実的には管理監督者がその役割を果たしていません。今こそ、「地方公務員の勤務条件も労働基準法で定められた基準以上」のものでなければならないという労使共通の認識を確固たるものにした、方針やガイドラインの策定が求められています。 - (2)学習を力に、具体的な取組みをすすめましょう
安心して働き続けられる職場づくりを使命とする労働組合の役割として、残業パトロールや超勤実態アンケートなどを実施して、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況を把握・分析を行い、その結果などをもとに不払い超過勤務手当の支払いや、予算人員闘争などで具体的な交渉をすすめましょう。その上で、何よりも学習・宣伝活動を重視し、誰もが健康でいきいきと働き続けたいという職員の願いに応えていきましょう。
〔学習啓発の取り組み〕
機関紙などを通して、長時間過重労働による心身への悪影響や、超過勤務の縮減、不払い残業を根絶させるための職場や職員の意識改革をすすめましょう。
また、労働組合が長時間過重労働や不払い残業根絶に向けて正面から取り組んでいることをアピールし、特に超勤予算の確保や黙示の超勤命令に対する管理者責任について、徹底的に追及したたかっていく労働組合の姿を見せることが重要です。〔超勤アンケートの取り組み〕
全職場を対象とした超勤実態アンケートを実施し、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況や各職場の実態を把握し、人員増闘争などに結びつけていくことが必要です。〔超過勤務の記録付けの取り組み〕
超過勤務時間を必ず記録し、実績どおりに支払わせるために当局の超過勤務命令簿に記録をする運動を行いましょう。また、超過勤務時間、業務内容などを記録できる用紙を労働組合で作成するなど、超過勤務記録運動をすすめます。〔残業パトロールの取り組み〕
労働組合として残業パトロールなどを実施して、超勤実態の把握に努めることも大切です。その結果をふまえ、当局に超過勤務記録簿などデータの提供を求め、把握した事実との食い違いについて明確にし、実績どおりに超過勤務手当を支払わせる交渉と取組みをすすめます。
また、超勤パトロールでは、お茶やお菓子などを配布しコミュニケーションを築くことや、どの様な理由で残業を行っているのかその場でアンケートや簡単な聞き取り調査を行うことも大切です。
3.予算人員闘争において業務量に見合う人員を要求し、大幅増員を勝ち取りましょう
不払い残業を撲滅していくためには、労働組合として人員増闘争などに結びつけていくことが必要です。「所定の勤務時間では片付かない仕事量」「予算や議会、急な調査物など、調節できない仕事が多い」「人員削減により人的な余裕が少ない」ことから、「仕事に責任がある」という理由で不払い残業につながる場合も多くあります。
住民サービスを低下させずに残業を縮減する最大の基本は事務量に見合った人員を配置することです。そのためには、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況の把握、メンタル疾患など病気休職者数を明らかにさせて、その原因が人員不足であることを当局に認めさせることが重要です。
また、年度途中の退職や休職者などを踏まえたゆとりある人員配置を前提に、「必要な部署には必要な人員と予算をつけるべき」と主張したうえで、行き過ぎた超過勤務による職員の健康被害や、超勤に対する適正な割増賃金の支給率を鑑みれば、かえって新規採用者を増やしたほうが得策であるべきと主張して、予算・人員増闘争に結びつけていくことが必要です。
4.安全衛生委員会を活用しよう
安全衛生委員会として、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況の把握、病気休職者数を明らかにさせ分析を行うこと、職場巡視活動結果などをもとに調査審議してその原因を労使共通の認識とすることが重要です。
「過重労働総合対策」では、超過勤務時間が「1月あたり100時間を超える労働者」、「2〜6ヶ月の平均で月80時間を超える労働者」については、申し出があれば「確実に」医師の面接指導を実施、申し出がなくとも「実施するよう努める」こととなっています。さらに「1月当たり45時間を超える労働者で、健康への配慮が必要と認めたものについては面接指導等の措置を講ずることが望ましい」とされています。義務的通知ではなく罰則規定がないものですが、通知として出されたものであり「実施しなくても良い」と解釈するものではありません。
安全衛生委員会としては、すべての超過勤務の実態を把握し、その原因を明らかにし政策化をすすめ、超勤縮減にむけて具体的な対策を検討・実施することが求められます。そのために安全衛生委員会では以下の取り組みをすすめます。
- (1)当局と産業医に安全衛生委員会で超過勤務の縮減にむけた取り組みの実施を表明させます。
- (2)100時間、80時間に限らず、45時間を超える超過勤務を行った労働者に対して、医師の面接指導を行うとともに、産業医を先頭にした当該職場の実態調査を行う実施計画を立てます。
- (3)その他の職場についても超過勤務実態に基づいて、産業医とともに係ごと、課ごとの職場巡視を実施し、職場実態の把握と原因究明のための事実を把握します。
- (4)安全衛生委員会で超過勤務の生じる理由について、事実を基に検討します。
- (5)検討結果に基づいて当局への勧告を行わせます。とりわけ人員増の必要があると明らかに認められる場合は明確な勧告を行うことが重要です。
これらの取り組みを通して、業務の執行体制に必要な人員について検討するよう議論を進めることによって、全体の共通認識の形成を図っていくことが大切です。
〔資料2〕 公務員への労働基準法・労働安全衛生法の適応表
〔資料3〕 給16号事業所とは
官公署のうち、労働基準法の別表第一に該当しない事業場を指します。同法第33条を根拠として、公務のための臨時の必要があることを要件として36協定締結なしに、時間外勤務・休日勤務を命ずることができるとされています。東京都の知事部局や区市町村の本庁職場の多くは旧16号事業所に該当するとされています。