2015超過勤務縮減・不払い残業根絶に向けた取り組み方針
2015年7月1日
東京自治労連中央執行委員会
はじめに
自治体構造改革により、総人件費削減や仕事の量を度外視した人員削減がすすみ、過密労働が常態化でいます。また、職場では委託や派遣など複雑な雇用形態の労働者が働くこととなり、異常な長時間労働や不払い残業が後をたちません。
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めることを目的とし、「1日8時間、週40時間」という規制があります。地方公務員の勤務条件も、条例で定める場合においても労働基準法で定められた基準以上のものでなければなりません。しかし、当局が超過勤務手当を抑制しようとする中で、結果的には労働時間の上限規制は存在していないともいえる現状となっています。
また、能力実績主義による人事評価の実施と評価結果の給与や任用(昇任など)への反映により、職場内の協力体制やコミュニケーションがますます希薄となり、さらにいじめやパワハラ・セクハラなどの深刻化も懸念されています。
長時間過重労働がよくないことは誰もが自覚していると思いますが、所定の勤務時間内では片付かない仕事量や、自分の仕事をきちんと仕上げたいから職務への責任感。長年に及ぶ賃金抑制政策等により生活が困窮しているため止むを得ず長時間残業を行って超勤手当を生活費に充てている職員も少なくはありません。これらを改善させていくためには、長時間労働対策、人員確保、何でも話し合える民主的な職場づくりなど「予算人員要求」の取組みと、「労働安全衛生活動」を結合させた運動を強化しなければなりません。
さらに、長時間労働の実態把握を当局まかせにせず、労働組合の姿を見せる取り組みを重視し、当局に使用者としての責任(安全配慮義務)を自覚させることが重要です。
東京自治労連は、体調不良を訴える労働者やメンタルヘルス疾患が増加している中で、超過勤務縮減・不払い残業手当根絶に向けた取り組み「方針」を確立し、健康で働き続けられる職場づくりをめざして、下記の通り提起します。
1.超過勤務問題をめぐる東京の状況
昨年、東京自治労連が取り組んだ、「働くみんなの要求・職場アンケート」には、20,300人の組合員等が回答し、超過勤務及び不払い超過勤務手当の実態について、以下のことが明らかとなっています。
14年10月の超過時間について尋ねたところ、50時間以上の超過勤務者が384人(1.8%)いました。また、不払い残業が「ある」とした人は8950人(44%)と、昨年の7342人・41.5%から増加しています。
さらに、不払い残業が「ある」と答えた人で、40時間を超える不払い残業時間が207人もいました。不払い残業が生じている理由は、「仕事の責任がある」が16.39%と最も多く、自治体・公務公共関係労働者として責任を果たさなければならないという責任感とともに職場の厳しさの実態を示しています。次いで、「申請しづらい雰囲気がある」14.3%、「手当額・残業時間の上限設定がある」7.1%となっています。
また、各単組が独自に取組んだ調査では、「みんな我慢しているから」「業績評価等など個人査定にマイナスになるから申告しない」「残業は個人の裁量の問題であり、自分は仕事が遅いから」などの理由で不払い残業を容認してしまうなど、休日・時間外労働のルールを軽視する労働者意識の問題も存在しています。東京自治労連中央委員会や拡大執行委員会の中でも、各単組から長時間過重労働や不払い残業の実態報告や、是正に向けての取組みなど多数寄せられています。き、二年間遡及して全額を確実に支払うことなどを柱に要求闘争を継続させています。
2.全国の自治体職場では健康障害やメンタル疾患者が急増しています
2013年度版「地方公務員健康状況等の現況」では、一般健康診断における有所見率は2009年度から一貫して70%台で高止まりを続けており、職員4人のうち3人は何らかの所見があります。
職員10万人あたりの1か月以上の病休者は、2003年に2,000人を超え2013年には2,365人となっています。また、精神及び行動の障害は 1,219人(2013年)と長期病休者の52%を占めています。
在職死亡者は、2013年度は678人、10万人率90.6人となり、原因別では第1位が悪性新生物で46.0%、第2位が自殺の 19.8%、以下心疾患11.9%、脳血管疾患5.6%となっています。
地方公務員法が「改正」され、2016年4月から能力実績主義による人事評価の実施と評価結果の給与や任用(昇任など)への反映が義務づけられることになりますが、先行して人事評価を実施している国家公務員等からは、職場のチームワークが保てない、職場内で仕事を教え合わなくなったなどの問題点が指摘されておりストレスの増大が予想されます。
長時間過重労働の及ぼす影響は、職場での負荷を大きくするだけでなく、睡眠時間を減少させ、家庭生活にも影響し、精神的負担を増加させて、メンタルヘルス疾患者を急増させています。
3.超過勤務縮減と不払い残業根絶にむけた各単組の取り組み
- 1)不払い超勤が蔓延する都庁の職場では、2008年に教育庁支部の坂本通子さんが、長時間労働や不払い超勤を一掃するために「超過勤務手当」が超勤時間に相当する分支給されていないのは不当であると東京地方裁判所に提訴しました。
2010年、東京地裁は原告の主張をほぼ全面的に認め、被告東京都に対して超過勤務手当として、金137,910円を支払うよう命ずる判決を下しました。
被告の東京都がこの判決を不服として東京高等裁判所に控訴しましたが、東京京高等裁判所は、東京地裁判決を支持して東京都の控訴を棄却しています。
東京都は、「超過勤務命令がなく、必要性、緊急性が認められないので超過勤務手当の支給はしない」と主張しましたが、判決は@原告を含む一般職の地方公務員に対し、時間外や休日及び深夜労働に対して割増賃金を規定した労働基準法37条が適用されるA正規の勤務時間内に終えることができない業務を与えられ、公務の円滑の遂行に必要な残業であったB超過勤務実績について、管理課長は補助簿の提出を受けるなどして超過勤務を容認していたC超過勤務の実績に見合うだけの予算措置が講じられていなかったために補助簿記載の超過勤務時間数の一定割合のみを命令簿に記載させて超過勤務手当の申請を事実上抑制していたとして、坂本さんに超過勤務手当を支払わなければならないことを明快に認定しています。
この裁判では、明らかになったことは、「労働した分についてはきちんと支払うという労働基準法の精神」が公務職場で適応されたということです。 - 2)保険医療公社の多摩北部医療センターでは、2014年5月に、立川労基署の立ち入り検査があり、「客観的に労働時間を適正に把握するように」と指導を受けました。
多摩北部医療センターでは、比較的管理のしやすい事務(庶務課・医事課)から、カードリーダを退勤時に活用し、業務終了と打刻時間との差についての改善策を講じることとしました。所定勤務時間終了時刻(超過勤務した場合は超過勤務命令簿の終了時間)と退勤時の打刻の時間に30分以上の時間差が生じた場合の時間差について、その理由を申告することとし、11月から試行を開始しました。
事務以外の職場についてはそれぞれの職場実態を見て今後検討するとしており、組合としても今後の対応について再度病院当局と交渉を持つ必要があるとしています。 - 3)非正規職員の時間外勤務の実態は、様々な職種で見られます。非常勤職員の多くは基幹的業務を担っているため、契約時間内では仕事がなかなか終わらせることができない実態です。しかし、非正規職員の時間外手当については、2014年7月4日に出された総務省公務員部長通知(7.4通知)で「支給すべきもの」と記述されているにもかかわらず、相変わらず「手当は支給できない」と答えている自治体や、「非常勤職員には時間外勤務を想定していないため、させないようにする。」として、時間外分の賃金支払いには背を向けた回答を続けている自治体もあります。
さらに、時間外手当を支給したくないため、別の日に超過勤務した時間分だけ出勤時間を遅らせるなど「振替」「調整」と言われるような脱法的な取り扱いがかなりの自治体で行われており、周りの職員に遠慮して時間外手当を請求できない職員もいます。労基法を遵守して「超過勤務した分はきちんと賃金で支払われる」職場づくりが必要です。
公共一般板橋支部では、学校栄養士に対する超過勤務支払いについて、労基法を示しながら支払わなければいけない責任を追及し、2004年に支払いを認めさせました。このことにより、勤務時間内に終わらなかった分の残業代が支払われるようになりました。
「7.4」通知を活用して、公共一般豊島支部では「区民対応によるものと、災害時の区民の安全確保や緊急対応については認める」、文京支部では「振替対応ができない場合で、区民対応によるものやイベントや会議などは認める」、墨田支部で「栄養士についての支給を認めさせる」などの前進を築いています。 - 4)江東区職労では、2014年12月に「職場におけるパワーハラスメント問題対処方針」を執行委員会で決定し、2015春闘で「超勤残業・不払い残業」の撲滅を方針の柱として位置づけて取り組みました。残業実績を付けさせないパワハラ問題など、使用者の責任として「超勤手当の実績保障」を求めて交渉をつづけています。
また、超過勤務の把握をするために「記録付け」運動や、閉庁後の職場を巡回し、超過勤務の実態調査を行っています。 - 5)墨田区では、当局が「不払い残業はあってはならない」としながらも、不払い残業根絶のための有効な手立てを打たず、問題解決を放置してきました。墨田区職労は、問題解決に向け、一向に歩みを進めようとしない区に対し、真剣に問題解決への取り組みを行うことを求めるため、全職場を対象としたアンケート調査を実施しました。
組合員から、「超勤手当予算がないと一年中、言われている。」、「超勤手当を申請しづらい雰囲気が職場の中にあり、退勤打刻をしてから残業をしている人が多く存在する。」、「人が減らされ仕事が増えているのに、残業代がつかないのでは、仕事への意欲が低下する。」、「19時前の残業は、申請しない不文律がある。」「第一には当局の姿勢に問題があるが、職員の意識改革も必要である。自ら進んで不払い残業をする職員も根絶するよう、組合でも啓発活動に取り組んでほしい。」など、せきららな回答が沢山寄せられ、この職場・組合員の切実な声を背景に、当局に長時間・サービス残業の根絶に向けた交渉をすすめています。
4.超過勤務は必要最小限でなければならないことを自治体当局や全ての労働者が「自覚」することが大切です
自治体構造改革がゴリ押しされ、業務の見直しや職員定数が激減した結果、仕事は煩雑化したうえ業務内容・業務量に見合った人員配置がされず人員不足となっていることから、慢性的な超過勤務によるメンタル疾患や健康被害が増加しています。また、正規職員に置き換えられた再雇用・再任用職員や非正規労働者の割合が急増し、能力主義・成績主義的管理が強化されたことや、退職共済年金の報酬比例部分を受給している再任用職員には労働時間の制限があることから、超過勤務手当の未申請につながっていることが想定されます。
長時間過重労働対策や不払い残業を是正させていくには、自治体当局が「過重労働による健康障害や過労死を生じさせない」という方針を確立し、長時間労働を防止していく庁内風土をつくることと、不払い残業は「犯罪」と同じ行為であることを当局や管理職がしっかり認識することが重要です。
また、ICカードで出退庁管理を行っている職場でも、夕刻にカードを通させた後に残業したり、終業時刻から一定の時間が経過してからしか時間外労働の算定時間としてカウントしていなかったなど労基法の形骸化が顕著になっています。
職員の意識改革も必要です。超勤を請求しないことなどによって、職場に法律が通用しない状況を蔓延化させ、管理職の管理監督義務の不履行を免罪させることとなり、定時の勤務時間内の適正な仕事量の把握も出来なくなってしまいます。
長時間労働や不払い残業を撲滅するためには実態の把握とともに、法律に基づいて仕事をすべき職員や管理職一人ひとりが「法令遵守」の意識を高めていくための、学習・啓発活動の取り組みが大切です。
労働組合として、超過勤務の割増賃金の支払いはもちろん、長時間労働の身体への悪影響や、不払い残業は法律違反の「犯罪」であることを徹底して周知させ、それらの原因となっている慢性的な人員不足の解消をはじめ、勤務時間の管理、定期的な休暇・休憩の確保など徹底を図ることを自治体当局に求めていくことが重要です。
5.「4・6通知」を活用し労働時間の正確な管理は当局の責任であることを強調しよう
労基法では、使用者の労働者の労働時間管理を義務付けていますが、実際には、出退庁記録簿や超過勤務申請簿など労働者が自己の勤務労働時間を自主的に申告し、使用者が労働時間を適切な管理を行ってないことがあります。そのため実際の勤務時間と乖離し、過重な長時間労働や超過勤務による割増賃金の未払いなどの問題が生じていることから、厚生労働省は、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置として、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(2001年4月6日基発第339号)を通知しています。
使用者には、労働時間を適正に把握する責務があり、そのための労働時間の適正な把握を行うために、@管理職自ら、始業・終業時刻を確認・記録することAタイムカードなどの客観的な記録を基礎として確認し記録する。ことを原則的な方法として示しています。しかし、管理職(指揮命令する直接の上司)が、部下に「あなたは、今、○時○分に仕事を終わりましたね。」と、一人ひとり目視確認することは不可能です。事実上、「タイムカードやICカードなどの客観的な記録を基礎として確認し、記録すること」が労働時間を管理することが現実的と言えます。
また、自己申告制により時間外労働を算定する場合は、@自己申告制を導入する前に、対象労働者の労働時間の実態、適正な自己申告についての説明を充分に行うことA自己申告の労働時間と実態が合っているか調査することB自己申告を阻害する目的で、時間外労働の上限を設定したり、仕事があるにも関わらず残業時間削減の通達を出すなど適正な申告を阻害してはいけないことを記述しています。さらに、時間外労働手当に係る予算枠や、時間外労働時間の削減のための通達など労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合は、改善のための措置を講ずるよう謳っています。
いずれにせよ、4・6通知では、労働時間の適正な把握や労働時間管理の適正化は、使用者に責務があり、特に労務担当役員、労務部長、総務部長等労務管理を行う部署の責任者は、労働時間が適正に把握されているか、過重な長時間労働が行われていないか、労働時間管理上の問題点を把握し、どのような措置を講ずべきかなどについて検討し是正をすべきことを明らかにしています。
6.今の職場実態を考えて、単に労働時間だけを減らすことも現実的ではありません。
先ずは、不払い残業をなくしていくことに力点を置き、下記取組みを強化しましょう。
- 1)36協定を締結しなければ超過勤務が出来ないことを徹底的に周知させよう。
36協定の締結と運用にあたっては、所定内労働を原則としつつ、個人別の労働時間の実績と仕事の繁忙期を想定した「特別条項つき協定」など、全ての職場で細分化した36協定を締結、毎月、職場ベースで協議して36協定を更新することが異常な超過勤務や不払い残業をなくしていく事につながります。
※ 附則資料参考 - 2)労働時間短縮推進委員会(仮称)を設置させて労使協議の場をつくろう
「4・6通知活用」で記述したように、当局・使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。
各職場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じて「労働時間短縮推進委員会」や「労働時間等設定改善委員会」など労使協議組織を活用し労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うよう4・6通知で求められています。
そこで労働時間管理の現状の把握と詳細な提示、労働時間管理上の問題点の検討、超過勤務の生じる理由の検討、及びこれらの解消策を検討など「長時間労働・不払い残業防止のためのガイドライン」を作成させて、超過勤務縮減や不払い超過勤務手当根絶に向けた取り組みを前進させましょう。
また、方針やガイドラインの決定には、労働組合の意見を十分反映させたうえで、庁内での合意形成が重要となります。また、あくまでも労働時間管理は、管理者の責任であることが大前提であり、第一義的には当局に直接労働時間の把握・管理を行わせることが基本です。
残念ながら、自治体職場では労働基準法の適応外などと誤った認識や風潮があり、現実的には管理監督者がその役割を果たしていません。今こそ、「地方公務員の勤務条件も労働基準法で定められた基準以上」のものでなければならないという労使共通の認識を確固たるものにした、方針やガイドラインの策定が求められています。 - 3)学習を力に、具体的な取組みをすすめましょう
安心して働き続けられる職場づくりを使命とする労働組合の役割として、残業パトロールや超勤実態アンケートなどを実施して、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況を把握・分析を行い、その結果などをもとに不払い超過勤務手当の支払いや、予算人員闘争などで具体的な交渉をすすめましょう。その上で、何よりも学習・宣伝活動を重視し、誰もが健康でいきいきと働き続けたいという職員の願いに応えていきましょう。 - 〔学習啓発の取組み〕
機関紙などを通して、長時間過重労働による心身への悪影響や、超過勤務の縮減、不払い残業を根絶させるための職場や職員の意識改革をすすめましょう。
また、労働組合が長時間過重労働や不払い残業根絶に向けて正面から取り組んでいることをアピールし、特に超勤予算の確保や黙示の超勤命令に対する管理者責任について、徹底的に追及したたかっていく労働組合の姿を見せることが重要です。 - 〔超勤アンケートの取組み〕
全職場を対象とした超勤実態アンケートを実施し、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況や各職場の実態を把握し、人員増闘争などに結びつけていくことが必要です。 - 〔超過勤務の記録付けの取組み〕
超過勤務時間を必ず記録し、実績どおりに支払わせるために当局の超過勤務命令簿に記録をする運動を行いましょう。また、超過勤務時間、業務内容などを記録できる用紙を労働組合で作成するなど、超過勤務記録運動をすすめます。 - 〔残業パトロールの取組み〕
労働組合として残業パトロールなどを実施して、超勤実態の把握に努めることも大切です。その結果をふまえ、当局に超過勤務記録簿などデータの提供を求め、把握した事実との食い違いについて明確にし、実績どおりに超過勤務手当を支払わせる交渉と取組みをすすめます。
また、超勤パトロールでは、お茶やお菓子などを配布しコミュニケーションを築くことや、どの様な理由で残業を行っているのかその場でアンケートや簡単な聞き取り調査を行うことも大切です。 - 4)予算人員闘争において業務量に見合う人員を要求し、大幅増員を勝ち取りましょう
不払い残業を撲滅していくためには、労働組合として人員増闘争などに結びつけていくことが必要です。
「所定の勤務時間では片付かない仕事量」「予算や議会、急な調査物など、調節できない仕事が多い」「人員削減により人的な余裕が少ない」ことから、「仕事に責任がある」という理由で不払い残業につながる場合も多くあります。
住民サービスを低下させずに残業を縮減する最大の基本は事務量に見合った人員を配置することです。そのためには、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況の把握、メンタル疾患など病気休職者数を明らかにさせて、その原因が人員不足であることを当局に認めさせることが重要です。
また、年度途中の退職や休職者などを踏まえたゆとりある人員配置を前提に、「必要な部署には必要な人員と予算をつけるべき」と主張したうえで、行き過ぎた超過勤務による職員の健康被害や、超勤に対する適正な割増賃金の支給率を鑑みれば、かえって新規採用者を増やしたほうが得策であるべきと主張して、予算・人員増闘争に結びつけていくことが必要です。 - 5)安全衛生委員会を活用しよう
安全衛生委員会として、職員一人ひとりの労働時間や休暇取得状況の把握、病気休職者数を明らかにさせ分析を行うこと、職場巡視活動結果などをもとに調査審議してその原因を労使共通の認識とすることが重要です。
「過重労働総合対策」では、超過勤務時間が「1月あたり100時間を超える労働者」、「2〜6ヶ月の平均で月80時間を超える労働者」については、申し出があれば「確実に」医師の面接指導を実施、申し出がなくとも「実施するよう努める」こととなっています。さらに「1月当たり45時間を超える労働者で、健康への配慮が必要と認めたものについては面接指導等の措置を講ずることが望ましい」とされています。義務的通知ではなく罰則規定がないものですが、通知として出されたものであり「実施しなくても良い」と解釈するものではありません。
安全衛生委員会としては、すべての超過勤務の実態を把握し、その原因を明らかにし政策化をすすめ、超勤縮減にむけて具体的な対策を検討・実施することが求められます。そのために安全衛生委員会では以下の取り組みをすすめます。 - @当局と産業医に安全衛生委員会で超過勤務の縮減にむけた取り組みの実施を表明させます。
A100時間、80時間に限らず、45時間を超える超過勤務を行った労働者に対して、医師の面接指導を行うとともに、産業医を先頭にした当該職場の実態調査を行う実施計画を立てます。
Bその他の職場についても超過勤務実態に基づいて、産業医とともに係ごと、課ごとの職場巡視を実施し、職場実態の把握と原因究明のための事実を把握します。
C安全衛生委員会で超過勤務の生じる理由について、事実を基に検討します。
D検討結果に基づいて当局への勧告を行わせます。とりわけ人員増の必要があると明らかに認められる場合は明確な勧告を行うことが重要です。
これらの取り組みを通して、業務の執行体制に必要な人員について検討するよう議論を進めることによって、全体の共通認識の形成を図っていくことが大切です。
おわりに
新自由主義による構造改革により、国民・労働者に増税や社会保障改悪など負担が押しつけられていますが、そのためのツユ払いや悪政を免罪させる道具として、公務員の賃金抑制や人員削減が意図的につくりだされています。職場では、仕事だけが増え続けて余裕のない人員配置や予算編成により、長時間労働が恒常化して不払い残業につながり、メンタル疾患など健康を損なう職員が急増しています。
あらためて言うまでもなく当局の責任と役割は重要です。同時に、長時間労働や不払い残業問題、メンタルヘルス問題は労働条件そのものであり、長時間労働と不払い残業の根絶とそのもとである人員削減をやめさせ、人員要求と超勤予算増要求のたたかいの強化が喫緊な課題です。
そのためには、本方針で記述したように「超過勤務は必要最小限」でなければならないことを自治体当局や全ての労働者が自覚することが大切です。また、不払い残業は「犯罪行為」であり、法令遵守が強く要請される自治体ならばなおさらのことです。職場の実情に沿った36協定を全ての職場で締結させ、「まず、職場内から法令遵守」を合言葉に是正をすすめていかなければなりません。超勤パトロールや、学習・宣伝活動を重視した取組みを強化し、誰もが安心して健康でいきいきと働き続けられる職場づくりの実現をめざしましょう。
〔附則資料1〕
「36協定」を締結しなければ使用者は時間外労働を命令することはできません。
職場の実情に沿った36協定を全ての職場で締結することも大切です。
時間外労働は、労働者の心身の健康維持に向け必要最少限でなければなりません。過労死訴訟の判例を踏まえれば、「1ヶ月80時間または2ヶ月160時間」は過労死してもおかしくない水準であり、全ての労働者に対して守られるべき基準です。
時間外労働や休日労働は「36協定」を締結し、労働者の健康維持などに向けて、必要最小限度に留めた基準を定めなければなりません。また、年度末・年度初めなど臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には「特別条項つき協定」を結べば、限度時間を超える時間を延長時間とすることが出来ます。
例えば、「一定期間についての延長時間は1ヶ月30時間とする。ただし、●●係の繁忙期には、労使の協議を経て、1ヶ月50時間までこれを延長することができる。この場合、延長時間を更に延長する回数は、年間6回までとする。」、「一定期間についての延長時間は3ヶ月120時間とする。ただし、●●業務により業務量が増加したときは、労使の協議を経て、3ヶ月150時間まで延長することができる。この場合、延長時間を更に延長する回数は、年間2回までとする。」など、各職場の繁忙実態に合わせた36協定を締結します。
ただし36協定で定める最も長い場合でも『1週間15時間・2週間27時間・4週間43時間・1ヶ月45時間・2ヶ月81時間・3ヶ月120時間・1年360時間』の限度時間を超えないものとしなければなりません。
36協定は、毎月、職場ベースで協議して更新することが望まれます。
36協定の締結と運用にあたっては、所定内労働を原則としつつ、個人別の労働時間の実績と仕事の繁忙期を想定した「特別条項つき協定」など、全ての職場で細分化した36協定を締結し、毎月、職場ベースで協議して36協定を更新することが望まれます。
超過勤務時間については、事前・事後申請を問わず、正確な把握を本人申請以外に確実に行う方法を自治体当局・管理者に確立させて、超過勤務予算限度額や超過勤務上限時間などを示さないことと、超過勤務の有無を業績評価等の対象とさせないことが肝心です。
なお、厚生労働省は2001年に労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を示す「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を以下のように通達しました。これらを十分に理解して活用することが大切です。
〔附則資料2〕
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである。
しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用に伴い、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。
こうした中で、中央労働基準審議会においても平成12 年11 月30 日に「時間外・休日・深夜労働の割増賃金を含めた賃金を全額支払うなど労働基準法の規定に違反しないようにするため、使用者が始業、終業時刻を把握し、労働時間を管理することを同法が当然の前提としていることから、この前提を改めて明確にし、始業、終業時刻の把握に関して、事業主が講ずべき措置を明らかにした上で適切な指導を行うなど、現行法の履行を確保する観点から所要の措置を講ずることが適当である。」との建議がなされたところである。
このため、本基準において、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにすることにより、労働時間の適切な管理の促進を図り、もって労働基準法の遵守に資するものとする。
1 適用の範囲
本基準の対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場とすること。
また、本基準に基づき使用者(使用者から労働時間を管理する権限の委譲を受けた者を含む。以下同じ。)が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、いわゆる管理監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除くすべての者とすること。
なお、本基準の適用から除外する労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。
2 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
- (1)始業・終業時刻の確認及び記録
使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
- (2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては原則として次のいずれかの方法によること。 - ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
- (3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は、次の措置を講ずること。 - ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適 正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
ウ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
- (4)労働時間の記録に関する書類の保存
労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109 条に基づき、3年間保存すること。
- (5)労働時間を管理する者の職務
事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。
- (6)労働時間等設定改善委員会等の活用
事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。
〔附則資料3〕
労働基準法
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて労働させてはならない。
(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
(第2項〜第4項 略)
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
(第2項〜第5項 略)
(賃金台帳)
第百八条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。
労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(抄)
労働基準法第三十七条第一項の政令で定める率は、同法第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。
【参考資料】
- 2010慢性的超過勤務縮減
- 不払い超過勤務根絶に向けた取り組み方針
- 2001年ヒアリングを通してわかった問題点と対策
- 2009年中期時短目標「最低到達目標」達成に向けたガイドライン
- 2010年北海企業や自治体の先進事例からみた時間外勤務の縮減方策の検討
- なぜ国家公務員には労働基準法の適用がないのか
- 厚労省 過重労働パンフ
- 厚労省 過重労働解消キャンペーンパンフ
- 中央労働災害防止協会 果樹労働による健康障害防止対策
- 労政時報 時間外労働削減に向けたアプローチ
- 自治労連 職場のメンタルヘルス対策のために
- 自治労連 労働安全衛生・職業病全国交流集会基調報告
- 地方公務員の「時間外労働」に関して(法令上の根拠)