50人未満職場の労働安全衛生活動の取り組みについて
2012年4月18日
東京自治労連中央執行委員会
労働安全衛生法では労働者の安全衛生を守るために、50人以上職場では安全衛生委員会(衛生委員会:以下同様)を設置し、月に1回以上開催する義務があります。労働安全衛生法での50人以上の労働者とは、正規労働者だけではなく非正規労働者も含めた数で、週1〜2回の非正規労働者であっても1人と数えます。安全衛生委員会が設置されている職場では、開催に頻度の差はあれ1年間を通じて労働安全衛生活動が行われる状況にあります。他方、50人未満職場では事業者は安全衛生推進者を選任し、労働安全衛生法・規則に定められた業務を担当させることしていますが、安全衛生委員会の設置は義務化されていません。しかし、設置することはより労働安全衛生活動をすすめる上で積極的な対応であり、安全衛生推進者だけの活動よりも労働者の健康と安全を守る取り組みが進むことは明らかです。しかしほとんどの50人未満職場では安全衛生委員会が設置されておらず、安全衛生推進者についても施設長などが充て職として兼任している場合が多い状況です。このため日常的に労働安全衛生活動が職場に位置付いていない状況です。
これまで各自治体や局ごとの安全衛生委員会に施設長、あるいは労働者側委員を通じて意見をあげる活動と、50人未満職場を職種ごとにまとめて安全衛生委員会を設置することを基本に取り組みをすすめてきました。当然のことですが50人未満職場でも、同じ施設が数多くある場合は数百名を超える場合が多く、同じ施設を包括した安全衛生委員会を設置することは当然です。世田谷や板橋などではその必要性をふまえ、保育園などをまとめた安全衛生委員会が設置されています。しかしいくつかの自治体では、50人未満の同職種の職場をまとめて安全衛生委員会を設置する検討がされていません。
少人数職場でも労働安全衛生活動は重要で、全国の教職員職場でも近年職場環境改善運動が進んでいます。そこで東京自治労連としてもこれまでの取り組みを踏まえつつ、50人未満職場の安全衛生活動の取り組みについて提起するものです。
1.労働安全衛生活動は事業者と労働者が双方ですすめるもの
(1)労働安全衛生法第三条では、事業者は法律で定める「最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」と、事業者の責務を明確にしています。
(2)同法第四条では、「労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。」と、労働者の役割を明確にしています。
(3)50人未満職場においても、上記の責務や役割は変わるものではなく、労働安全衛生法はすべての労働者に適用されます。したがって事業者・労働者ともに職場における労働者の健康と安全を確保する取り組みをすすめることが求められます。
2.50人未満職場の事業者の役割と安全衛生推進者
労働安全衛生法では安全衛生推進者について次のように定めています。
(1)労働安全衛生法第十二条の二では、50人未満職場で事業者は「安全衛生推進者を選任し、その者に第十条第一項各号の業務を担当させなければならない。」としています。これにより事業者には次の二つのことが求められています。
@安全衛生推進者を選任すること
A安全衛生推進者に労働安全衛生法・規則に定められた業務を担当させること
(2)労働安全衛生法は事業場ごとに労働安全衛生の取り組みを行うことが定められており、基本がすべて事業場単位となっています。ですから安全衛生推進者を選任するのも事業場の安全配慮義務のある責任者の責務です。労働安全衛生法では第十二条の二の文言に見られるように、事業者あるいは事業場の責任者が安全衛生推進者を選任し、業務を担当させるのであって、事業者あるいは事業場の責任者が安全衛生推進者になることを想定していません。なぜなら、そうなった場合、自らを選任し自らに業務を担当させるという、矛盾することになってしまうからです。学校長や保育園長、施設長が充て職的に安全衛生推進者になっている例が多く見受けられますが、法の趣旨から間違っています。50人未満の小中学校では校長などの充て職ではなく、組合員を安全衛生推進者に選任するなどの改善が進んでいます。
3.関係労働者の意見の聴取
労働安全衛生規則では労働者の意見の聴取について次のように定めています。
(1)労働安全衛生規則第二十三条の二では、「委員会を設けている事業場以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聞くための機会を設けるようにしなければならない。」としており、50人未満、10人未満の職場においても、安全や衛生に関することについて、事業者が労働者の意見を聞かなければならないことを明確にしています。
(2)労働者の意見を聞く機会を設けるためには安全衛生推進者の役割が重要となります。安全衛生推進者は法に基づいて業務を行うのですから、事業者は安全衛生推進者の法に基づく要求には応えなければなりません。
(3)安全又は衛生に関する事項について労働者の意見を聞いたならば、事業者は「労働者の安全と健康を確保する」ために「快適な職場環境の実現と労働条件の改善」をしなければなりません。
4.具体的な取り組み
(1)職場で労働安全衛生上の課題と改善方法について明確にする
労働安全衛生の取り組みは、職場で安全や衛生について課題を明確にすることから始まります。職場の組合員を中心に労働安全衛生上の問題点や要望を議論し、要求課題としてまとめます。その際に職場点検活動を重視して取り組みます。
(2)安全衛生推進者を選任させる
50人未満職場では施設長が安全衛生推進者を兼任している場合が多く見られます。これらを改善するために、以下の通り取り組みます。
@労働安全衛生法は事業者が安全衛生推進者になることを想定していないことを示します。
A安全衛生推進者の役割を明確にし、職場の労働組合で議論して選んだ代表の者を、安全衛生推進者として施設長に選任させます。
B安全衛生推進者となるには、1日の講習を受ければ資格が取れます(後述)。当局に研修扱いとさせ公費で講習を受けさせるように要請します。
(3)労働者の意見を聞く場を設ける
@安全衛生推進者を中心に月に1回を目標にして、職場の安全衛生上の諸課題について意見を聞く場を設けます。
A安全衛生推進者がいない場合にあっても、施設長に労働安全衛生上の課題について労働者の意見を聞く場を定期的に持たせるよう要求します。
(4)聴取した労働者の意見の扱いについて
@安全衛生推進者は施設長に改善するよう伝えます。また、当局の安全衛生委員会の議題として取り上げ、問題解決のための議論を行うように要求します。
A施設長は安全衛生推進者から要求された安全衛生上の課題については、予算措置も含めて改善する責任があることを明確にして、改善されるまで確認をします。
B安全衛生推進者は当該職場を管轄する安全衛生委員会に職場の労働安全衛生上の解決すべき課題を議題とするよう要求します。
C職場の労働組合は安全衛生上の要求課題を単組・支部の要求課題に反映し、単組・支部はそれぞれ対応する安全衛生委員会の議題に盛り込むよう取り組みます。
(5)50人未満職場であっても安全衛生委員会を設置するよう要求します。
50人以上職場における安全衛生委員会の設置義務は最低基準です。労働安全衛生法第三条にある「最低基準を守るだけでなく」「労働者の安全と健康を確保するよう努力しなければならない」としていることからも、50人未満職場に安全衛生委員会を設置することはより積極的な対応です。ましてや同じ自治体内の同施設すべての労働者をあわせれば数百名を超える場合は、各施設で共通の労働安全衛生上の課題が存在します。学校の給食施設については昭和47年「基準局発602号」で「一の教育委員会の管轄下の給食職場をまとめて一の職場として取り扱うこと」と明示されています。この場合これらを包括して横断的に安全衛生委員会を設置することが法の趣旨からも当然求められることです。千葉の船橋市では保育園の4園を束ねて産業医の参加する安全衛生委員会をつくって活動をしています。小中学校の職場は50人未満が多いのですが、学校ごとの衛生委員会を設置して活動しているところが多くなってきました。その結果、京都、愛知、兵庫などの教育委員会では具体的な負担軽減策を提起しています。例えば京都市では教育委員会と教育長名で、「校務分掌の統廃合や会議の効率化」、「時間外勤務の把握制度(チェックシート)の活用」、行事等による勤務時間の振替などについて「必ず事前に振替等を明示」するなど学校長に通知しています。50人未満職場であっても労働安全衛生委員会の設置を当局に強く働きかけましょう。
5.安全衛生推進者になって職場の労働安全衛生を確立しよう
安全衛生推進者の果たすべき役割は職場の労働安全衛生を確保する上で極めて重要です。その役割は次のとおりです。
@労働者の危険、健康障害を防止するための措置に関すること
A安全、衛生のための教育の実施に関すること
B健康診断の実施、その他健康の保持増進に関すること
C労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること
Dその他、労働災害を防止するため必要が業務
これらの活動を職場の労働組合が積極的に行うことが大切で、職場の安全衛生推進者になることは、業務として勤務時間内に予算を使って活動できる重要な取り組みです。職場の労働安全衛生活動を前進させる上でも資格を取得し、当局にも業務の一環であることを明確にさせ、職場において安全衛生推進者としての積極的な役割を果たしましょう。
※資格を取るにはどうするか
「公益法人 東京労働基準協会連合会」のHPで、「各種講習会のご案内・申込」→「講習会スケジュールお申し込み」→「その他教育」のうち「安全衛生推進者養成講習」か「衛生推進者養成講習」を選んでいただきますと、直近の講習会の日程や要綱、申込についてわかるようになっています。ほぼ1日の決められた講習を受けることによって衛生推進者の資格を取ることができます。
※安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会とは? 製造業、運送業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業や小売業、家具・建具・じゅう器等卸売業や小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業の業種で50人以上の職場は、安全委員会の設置が義務付けられています。例えば給食職場などがあれば安全委員会の設置対象となります。それ以外の業種で50人以上の職場は衛生委員会の設置が義務付けられています。同一事業場に安全委員会、及び衛生委員会を設置すべき時は両方を一緒にして安全衛生委員会として設置できます。