慢性的超過勤務縮減・不払い超過勤務根絶に向けた取り組み方針
2010年9月22日
第40回中央執行委員会
はじめに
「構造改革」路線の下で続けられた「集中改革プラン」に基づき、都内の自治体でも職員定数の削減が強行されたことにより職場で慢性的な超過勤務が増え、春闘アンケートにみられるように超過勤務手当が支払われないという事例が大変多く見受けられます。
また、メンタルヘルスを始めとした職員の健康にも大きな影響を及ぼし、働き続けられる職場を目指すという意味で、超過勤務の縮減、不払い超過勤務手当の根絶は自治体労働組合にとって、緊急かつ重大な課題です。
労働環境が悪化する中、近年、安全衛生の観点からも労働者保護の視点で超過勤務についての規制を強化すべきという通達が出されているところです。
本年7月28日、超過勤務手当の不払いについて東京都を訴えていた教育庁の坂本通子さんが東京高裁で勝利判決を勝ち取り、都当局が上告を断念したことから判決が確定しました。
各単組でも、この闘いに力を得て超過勤務の縮減の取り組みが始まっています。都庁職ではカードリーダー等による超過勤務の記録運動の取り組みが始まりました。
超過勤務縮減・不払い超過勤務根絶の取り組みは次のような重要な意義を持っています。
- 慢性的な超過勤務縮減に東京自治労連全体として取り組み、職場環境を改善し、組合員の健康を守る重要な取り組みです。
- 違法な不払い超過勤務を根絶し、実績どおり支給させ、予算の改善につなげる取り組みです。
- 執行体制に見合う人員増へつなげる闘いです。
1.超過勤務問題をめぐる組合員の状況
超過勤務及び不払い超過勤務手当の実態について、東京自治労連が毎年実施する春闘アンケートで、以下のことが明らかとなっています。
超過勤務については、21,870名中350人程度、1.6%が月に45時間の超過勤務を行っています。厚生労働省は、「働くことにより労働者が健康を損ねることがあってはならない」と述べ、「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(基発第0317008号)の中で、月45時間を超えて長くなればなるほど業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとの医学的知見が得られている、としています。このことから、労働者の健康管理に係る措置を徹底するため、月45時間以上の超過勤務を行う労働者のうち、産業医が健康への配慮が必要と認めた者については、「面接指導等の措置を講ずることが望ましい」と述べています。
不払い超過勤務の有無について「ある」と答えた人が、2006年46.8%、07年45.8%、08年40.8%、09年45.7%、10年44.6%であり、概ね4割以上が不払い超過勤務を行っており、解決が急がれています。不払い超過勤務を行う理由として、10年アンケートでは「仕事の責任がある」35.1%、「申請しづらい雰囲気がある」30.8%、「手当額・残業時間の上限設定がある」15.3%の順になっています。また、「超過勤務申請を行うと業績評価に影響する」などの声も聞かれており、能力・業績主義人事給与制度も影響していることがうかがわれます。
2.超過勤務縮減と不払い残業根絶にむけた単組の取り組み
交渉組織・都庁職各支部では超過勤務縮減にむけて36協定の取り組みをすすめながら、協定を義務づけられていない職場においても超勤縮減検討委員会設置や安全衛生委員会の活用などで取り組みを行ってきました。都当局は都庁職との交渉の中で「東京都カードシステム出退勤関係事務処理要領により、職員は超過勤務又は休日勤務を行った場合はカードリーダー等の操作を勤務終了時に行うものとしている」と回答しました。これは「労働時間把握基準」の示す「タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。」を行う条件を備えていることを引き出した回答です。今年度都庁職はこれを確認し、カードシステムが使用できる職場で活用する方針を確立し、不払い超過勤務の根絶にむけた取り組みを各支部と意思統一しました。都庁職経済支部では都庁職の提起に応え、カードシステムの使用や「超過勤務時間記録用紙」に記入して集約する取り組みを提起しています。都庁職の各支部ではこれに基づいて取り組みを開始しています。
墨田区職労においては在籍数調査とミニアンケートで実態を明らかにしながら当局との交渉に臨み、手当てを支給させるなどの取り組みを行っています。江東区職労では坂本裁判の判決内容を組合員に知らせ、超過勤務実績記録表の活用をよびかけて不払い残業根絶の取り組みをすすめています。文京区職労でも新たに全庁的な調査活動を行うなどの取り組みを行っています。
3.取り組みの基本
超過勤務縮減にむけて、実態の把握と改善のための協議、実効ある36協定締結、不払い超過勤務根絶、労働安全衛生活動、人員予算闘争の取り組みを総合的に行うことが求められます。36協定締結の方針についてはあらためて方針化を図ります。労働時間管理は管理者の責任であることが大前提であり、第一義的には当局に直接労働時間の把握・管理を行わせることが基本です。
しかし現実には管理監督者がその役割を果たしていないもとで、教育庁・坂本裁判の教訓は、超過勤務時間と内容について労働者が日々記録すること、同時に管理職に超過勤務の事実を把握させることが大切であることを示しています。そもそも36協定締結職場では協定を締結しないままでの超過勤務命令は法律違反ですから、締結にむけた取り組みが超過勤務縮減にむけて重要です。
4.当局との交渉における獲得目標
(1)当局と次の点について交渉で要請していきます。
- 36協定締結しないままで超過勤務を行わせることができないこと。すべての職場で36協定を締結し、その際に協定時間は1日、1週間、1ヶ月ごとに最低限の超過勤務時間とすること。
- 事前・事後を問わず、超過勤務時間についての正確な把握を本人申請以外に確実に行う方法を確立すること。
- 超過勤務予算限度額や超過勤務上限時間などを示さないこと。
- 超過勤務を行うことを業績評価等の対象としないこと。
ア 管理者が自ら現認することにより確認し、記録すること。
イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
また、本人申請に際して以下の点について実施すること。
ウ 事前・事後を問わず職員に超過勤務について、すべて正しく記録し適正に申請を行うことを十分に説明すること。
エ 申請により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を行うこと。
(2)当局に労働時間短縮推進委員会等(安全衛生委員会を含む)の労使協議の場を設定させ、労働時間管理の現状の把握と詳細な提示、労働時間管理上の問題点の検討、超過勤務の生じる理由の検討、及びこれらの解消策を検討など、超過勤務縮減や不払い超過勤務根絶にむけた取り組みを行います。
(3)予算人員闘争において業務量に見合う執行体制を保障する人員について要求し、大幅増員を勝ち取ります。
5.単組・支部・分会での取り組み
(1)学習・宣伝活動のポイント
- 超過勤務を縮減し過重労働による健康障害を起こさないための責任は管理監督者にあります。労働基準局長通知「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(2006年3月17日:以下、「過重労働総合対策」)においても「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」を示し、事業者の責任で時間外・休日労働を削減することを求めており、長時間過密労働の責任は労働者にあるのではなく、当局にあることは明らかです。
- 超過勤務をさせるためには労働組合と合意した36協定が必要であり、毎年交渉しなければならず、毎年の更新の際に合意できなければ超過勤務をさせられません。36協定は労働者保護のためにあり、保護できる協定とすることが前提であり使用者の都合の良いように扱わせてはなりません。
- さらに超過勤務を行わせる場合、使用者として労働者の労働時間管理を正確に行わなければなりません。厚生労働省が2001年に出した通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(以下「労働時間把握基準」)では、「使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである」と述べています。
- その上で不払い超過勤務が生じないよう、「労働時間把握基準」では、「時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること」としています。
(2)超過勤務時間・業務の記録運動の推進
超過勤務時間を必ず記録し、実績どおりに支払わせるために、以下の取り組みをすすめます。
- 当局の超過勤務命令簿に記録をする運動を行います。
- 超過勤務時間、業務内容などを記録できる用紙を労働組合で作成するなど、超過勤務記録運動をすすめます。
- 退庁時間管理に向けて単組での合意を基本に、タイムカード・ICカードなども含めた運動を取り組みます。
- 労働組合として超勤パトロールなどの取り組みで実態の把握に努めます。その結果をふまえ、超過勤務記録簿などデータの提供を求めます。
- 超勤パトロールなど労働組合の取り組みで把握した事実との食い違いについても明確にし、実績どおりに超過勤務手当を支払わせる交渉と取り組みをすすめます。
(3)安全衛生委員会での取り組み
「過重労働総合対策」では、超過勤務時間が「1月あたり100時間を超える労働者」、「2〜6ヶ月の平均で月80時間を超える労働者」については、申し出があれば「確実に」医師の面接指導を実施、申し出がなくとも「実施するよう努める」こととなっています。さらに「1月当たり45時間を超える労働者で、健康への配慮が必要と認めたものについては面接指導等の措置を講ずることが望ましい」とされています。義務的通知ではなく罰則規定がないものですが、通知として出されたものであり「実施しなくても良い」と解釈するものではありません。
安全衛生委員会としては、すべての超過勤務の実態を把握し、その原因を明らかにし政策化をすすめ、超勤縮減にむけて具体的な対策を検討・実施することが求められます。そのために安全衛生委員会では以下の取り組みをすすめます。
- 当局と産業医に安全衛生委員会で超過勤務の縮減にむけた取り組みの実施を表明させます。
- 100時間、80時間に限らず、45時間を超える超過勤務を行った労働者に対して、医師の面接指導を行うとともに、産業医を先頭にした当該職場の実態調査を行う実施計画を立てます。
- その他の職場についても超過勤務実態に基づいて、産業医とともに係ごと、課ごとの職場巡視を実施し、職場実態の把握と原因究明のための事実を把握します。
- 安全衛生委員会で超過勤務の生じる理由について、事実を基に検討します。
- 検討結果に基づいて当局への勧告を行わせます。とりわけ人員増の必要があると明らかに認められる場合は明確な勧告を行うことが重要です。
以 上