東京都職員坂本通子さんの、不払い超過勤務手当の支払いを
求める裁判に対する東京高等裁判所の控訴審判決についての声明
2010年7月28日
原告坂本通子
同弁護団
都庁職教育庁支部
1. | 現役の東京都職員で、都庁職教育庁支部の組合員でもある原告坂本通子は、超過勤務を行ったのに「超過勤務手当」を超勤時間に相当する分支給されていないのは不当であるとして、被告東京都に対し未払いの超過勤務手当452,740円の支払い等を求め、2008年5月28日、東京地方裁判所に提訴していたが、この事件で、東京地方裁判所は本年3月25日、原告の主張をほぼ全面的に認め、被告東京都に対して超過勤務手当として、金137,910円を支払うよう命ずる判決を下したが、被告東京都がこの判決を不服として東京高等裁判所に控訴していた。この控訴審について、本日、東京高等裁判所は、東京地裁判決を支持して東京都の控訴を棄却し、東京都に対して超過勤務手当として、金137,910円を坂本に対し支払うよう命ずる判決を下した。 | ||||||||
2. | 東京地裁判決は、「原告を含む一般職の地方公務員に対し…労働基準法37条も原告に対して適用される」とした上で、「原告は、現に正規の勤務時間内に終えることができないような業務を与えられ、そのために正規の勤務時間以外の時間や休日に担当分掌上の業務を行っていること、原告の超過勤務は、いずれも、これが行われなければ、多摩教育事務所の公務が渋滞するなど、公務の円滑の遂行に必要な行為であったこと、これら超過勤務の実績については、管理課長において、その勤務ぶりを常日頃から現認しているばかりか、原告から補助簿の提出を受けるなどして不定期ではあるけれども業務の報告を受けることにより知悉していた上で、かかる超過勤務を容認していたこと、また、超過勤務の実績に見合うだけの予算措置が講じられていなかったために補助簿記載の超過勤務時間数の一定割合のみを命令簿に記載させて超過勤務手当の申請を事実上抑制していたこと(なお、超過勤務手当について予算等の財源措置を講じていないからといって、被告が地方公共団体としてその負担すべき超過勤務手当の支給を拒み得ないのは当然であり、かかる取扱いが不相当であることは明らかである。)からすれば、原告に対しては、各超過勤務をするに当たっては、管理課長から黙示的に超過勤務命令があったものと認めるのが相当である。」と判断し、原告に対して被告が超過勤務手当を支払わなければならないことを明快に認定した。 その上で、消滅時効については、東京都当局が原告に超過勤務手当の支払いがされるであろうとの信頼を惹起させて原告の時効中断措置をとることを怠らせるなどの信義に反する行為をした事実がないこと等に照らし原告の主張を認めなかった。以上により、平成17年12月支給分以降の超過勤務手当の支払いを命じたものである。 |
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3. | 東京高裁判決は、上記東京地裁判決を全面的に支持する立場を表明した。 加えて、東京高裁判決は、「管理課長及び庶務係給与担当者は、超過勤務の実績に見合うだけの予算措置が講じられていなかったため、超過勤務手当を抑制するため、補助簿記載の各超過勤務について、補助簿記載の超過勤務時間数の一定割合のみを命令簿に転記させ、個別に、被控訴人の超過勤務の緊急性及び必要性を判断していなかったことなどが明らかであり」(判決7頁)と判断し、本件超過手当不払いが予算措置の不足のもとで起こったこと、東京都当局が条例に基づく運用などしていないことを、ダメを押す形で認定した。 そして、東京高裁判決は、東京都が控訴理由とした勤務時間条例の解釈論についても、「勤務時間条例規則も、労基法37条を受けて定められたものである」(判決8頁)としてこれを否定し、労働時間に関する独自の解釈を許さない姿勢を鮮明に示した。 他方、訴訟で勝訴した当事者は、敗訴した当事者が上訴した場合、これに附帯して自らの敗訴部分について上訴することができるため、本件でも坂本は、東京都の控訴に伴い、敗訴した時効部分の問題について附帯控訴したが、この部分についても東京高裁判決は、東京地裁判決を支持した。 |
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4. | 東京地裁判決の意義について、私たちは、東京都の職場で、予算措置を講じることなく、時間外労働に対しその割り増し賃金を支給しない違法なシステムが存在していたことを認定し、このような違法な事態は許されないことを明快に断じた点に意義があり、坂本、東京都の職員、ひいては全国の労働者の願いに正面から応えたものである。坂本だけでなく、都庁職員全体、ひいては全国の自治体労働者、民間企業の労働者にとっても、大きな意義を持つ、画期的な判決である、と評価した。 東京高裁判決は、東京地裁判決の意義を改めて確認し、本件超過手当不払いが予算措置の不足のもとで、東京都当局が条例を無視して、不払いのための仕組みを築き上げていたことを更に一層明確に認定し、上告しても無意味であることを明らかにした。 また、東京都は、実質的には理由にもならない理由をこじつけて控訴を行ったが、そのような身勝手な法解釈は許さないと高裁判決は宣告したことにも大きな意味がある。都民のために税金を預かり執行する立場として、控訴理由の見つからない控訴をせずいさぎよく東京地裁判決に服すべきであったのであり、東京都が都民の税金を徒に浪費した点に対して鋭い批判が向けられることを明らかにした判決でもあったといえる。 |
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5. | 私たちは、被告東京都が本判決を真摯に受け止め、これ以上都民の税金の無駄遣いをすべきでもないことを訴え、以下のことを誠実に実行することを要求する。
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