自治体職場における偽装請負・違法派遣一掃に向けた取組み方針
2009年6月24日
東京自治労連中央執行委員会
総定数抑制方針、特に現業職員退職不補充方針に基づいて、極めて安易な業務の民間委託化が進行しています。
委託化に伴う住民サービスの低下、劣悪な労働諸条件のもとで働く委託労働者の拡大とともに、「偽装請負・違法派遣」状態が自治体職場に急速に拡大しています。
東京自治労連では、昨年夏の自治労連本部による中央省庁交渉の到達点も踏まえるとともに、「現業職員退職不補充方針」を具体的に跳ね返していくことを視野に、昨年の秋季闘争から今春闘期にかけて調理・用務職の委託問題を重視して取組を進めるとともに、単組における要求の具体的前進を築いてきました。
これらの取組の到達点及び、厚生労働省が新たに本年3月31日付で通知した「告示第37号に係る疑義応答集」を受けて、住民サービスの維持・向上のための執行体制を確保し、自治体職場における偽装請負・違法派遣の一掃をめざして、取組を強化するものです。
1 この間の取組と到達点
(1)用務・調理職の委託問題を中心とした取り組み
現業職員退職不補充方針を背景とした現業職場の委託拡大を受けて、昨年7月15日に自治労連が実施した学校給食偽装請負問題での厚労省交渉の到達点も踏まえて、「調理・用務職の偽装請負問題対策会議」を設置し、各単組・職場代表の参加で闘いの到達点の共有化・課題の整理を進めてきました。
各単組の交渉において当局側が、委託仕様書万能主義を強調していることを踏まえ、各自治体の委託仕様書を点検し、「東京労働局宛『自治体における調理・用務業務の委託問題に関わる質問書』」として整理し、3月19日に28名の参加で東京労働局に対する要請行動を実施しました。
この中で、各自治体当局が適法と主張する委託仕様書の規定内容そのものが偽装請負に相当する点が見受けられることを確認しています。
(2)墨田区職労が、10年ぶりの現業職員新規採用などを実現
秋季年末闘争から今春闘にかけて、各単組は旺盛な委託・民営化反対闘争を推進してきていますが、この中で、墨田区職労が全国的にも極めて高い到達点を実現しています。
第一に、10年ぶりの現業職員新規採用です。労使で土木事務所のあり方の検討を進め、住民サービス維持の上で直営による維持作業の必要性と土木現業職員定数24名の維持を確認し、新規採用を実現したものであり、現業退職不補充方針に風穴をあける到達点を築きました。
第二に、現に委託されている事業の直営化実現です。04年4月から民間委託されていた窓口課の住民票等郵送請求業務について、市場化テスト法をめぐる国会質疑や、窓口業務委託問題での内閣府・総務省通知をめぐる省庁交渉の到達点、偽装請負・違法派遣問題を踏まえた粘り強い闘いで、総務省通知に基づく「法令遵守の観点」で、今年度からの「直営化」を実現したものです。
(3)是正を余儀なくされる自治体
「貧困と格差をなくせ」「労働者派遣法の抜本改正」の運動が、偽装請負・違法派遣問題を社会的世論にする中で、労働局による是正指導が民間企業はもとより、新潟県立病院の委託看護助手、広島県安芸高田市の委託保育士、兵庫県尼崎市の住民票入力業務委託、兵庫県篠山市図書館のカウンター業務委託など、公務職場に対しても相次ぐ事態に至っています。
都内では、昨年9月29日付で東京労働局が、都税事務所の個人事業税の課税に必要な書類コピー業務の委託で、委託労働者に対する直接業務の指示や退勤・休憩などの時間管理を行っているとして、東京都に是正指導を行いました。
また、議会からの指摘に基づく是正も、全国に拡大しています。都内では、品川区オアシスルーム(保育園の一時保育)が派遣労働者を、派遣期間上限である3年経過後に3ヶ月のクーリング期間を置いて、再び派遣労働に戻すという脱法行為をしており、本年2月27日の区議会で追及を受け、区側が直接雇用への切替を表明しました。
法令を遵守すべき自治体職場における違法状態と、その是正の流れが生まれています。
2 偽装請負・違法派遣を一掃するために
(1)厚生労働省の疑義応答集の活用
本年3月31日付の厚生労働省職業安定局長通知「告示第37号に係る疑義応答集」は、一部に従来の解釈を後退させる問題点があるものの、従来は曖昧であった点について明確な考え方を打ち出した部分があります。
特に、自治体職場における業務委託に関わって、以下の点で、活用できる大きな前進部分があります。
@「文書による指示」であっても詳細な指示に基づく委託は「偽装請負」
委託先事業者の有すべき「専門性」との関係で疑義がありましたが、従来は、「あらかじめ書面で、委託先責任者に対する指示」であれば適法な委託と解釈されていました。
しかし、今回の厚生労働省通知では、発注者が口頭のみならず、仕事の内容、順序、方法等の指示や請負労働者の配置について文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合は、偽装請負となると明確にしています。
給食調理や用務職場等で、調理業務指示書、調理工程表、作業動線図など、作業内容、順序、方法等を詳細に請負事業者に文書で示して指示している場合は、偽装請負と判断されます。
【厚生労働省通知抜粋】
7 作業工程の指示
発注者が請負業務の作業工程に関して、仕事の順序・方法等の指示を行ったり、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定したりすることは、請負労働者が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っていないので、偽装請負と判断されることになります。また、こうした指示は口頭に限らず、発注者が作業の内容、順序、方法等に関して文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合も、発注者による指示その他の管理を行わせていると判断され、偽装請負と判断されることになります。
A作業者1人の業務委託は「偽装請負」
これまでは、委託先の作業者と責任者の区分が曖昧で、結果として責任者に対する指示と称した作業者への指揮命令が横行していました。
今回の厚生労働省通知では、「請負作業所に、作業者が1人しかいない場合で当該作業が管理責任者を兼任している場合、実態的には発注者から管理責任者への注文が、発注者から請負労働者への指揮命令になるから、偽装請負と判断される」としており、学校や保育園の用務職など一人職場の民間委託化は実質的に不可能となります。
B窓口職場における業務委託は一層困難に
戸籍謄本や納税証明書、住民票の写しなどの交付請求等の窓口業務の民間委託については、受付と引き渡しだけに限定されており、昨年の総務省交渉でも、「一件の業務が完結するまでの間に、一回は市町村職員の決裁が必要」と回答しています。
このため、委託可能な範囲は、連続する作業の一部分にとどまりますが、今回の厚生労働省通知では、「発注者と請負事業主の作業内容に連続性がある場合であって、それぞれの作業スペースが物理的に区分されていないことや、それぞれの労働者が混在していることが原因で、発注者が請負労働者に対し、業務の遂行方法に必然的に直接指示を行ってしまう場合は、偽装請負と判断される」としています。
連続する作業において、作業スペースの物理的区分や混在の解消は、実質的に困難であり、窓口業務委託化は事実上不可能といえます。
(2)委託仕様書の内容そのものが偽装請負
東京労働局要請における、「自治体における調理・用務業務の委託問題に関わる質問書」への口頭回答の中で、委託仕様書の規定内容そのものが偽装請負に相当する点も見受けられることが明らかとなっています。
たとえば、「各行事ごとに教職員と十分に打ち合わせ調整を図ること」(都立学校用務の仕様書)について、注文主と受託者リーダーとの間の打ち合わせならともかく、個別に要請・指示しているのであれば請負にはなじまないと東京労働局は回答しています。
同じく、「緊急な場合は、口頭により示すことを含むものとする」(都立高校の仕様書)については、「そこで指示しなければ重大な災害・死亡事故が生じる場合が想定される」ものであり、床が汚れているから清掃してほしい、あるいは蛍光灯が切れているから交換してほしい、というような指示は偽装請負だと回答しています。
さらに、受託業者に当該作業を委ねることが請負には必要なため、「連携」や「補助」と称した共同作業はありえないことも明確となりました。
3 対応の基本
(1)委託化との闘いは、単なる「偽装請負・違法派遣」解消が目的ではなく、住民サービスの維持・改善のために必要な執行体制の確立をめざす闘いです。住民サービス水準の維持・改善を前面に、広く住民世論を結集した闘いを基本として取組を進めます。
(2)新たな業務委託化・拡大を阻止し、「現業職員退職不補充方針」を跳ね返し、現業職域の確立による新規採用実現など、定数純減目標を背景とした総定数抑制方針との闘いとして位置付けて取組を進めます。
(3)既に委託された事業などについては、法制度面および住民サービス実態の検証を進め、直営化を基本として取り組みます。
(4)公契約運動の視点で、委託労働者の労働諸条件改善の取組と結合して取り組むこととし、委託労働者をはじめとした未組織労働者の組織化・組織拡大を位置付けて取り組みます。
4 具体的な取り組み
(1)旺盛な学習と意思統一
東京自治労連は、6月17日に保育部会・現評・給食協議会との共催で、学習会を開催しましたが、取組を進めていく上で、単組・支部・分会・補助組織役員の学習と意思統一は不可欠です。
自治労連が作成した冊子「公務公共サービスの基本は直接雇用です 自治体職場から『偽装請負』『違法派遣』やめさせよう」を活用して、単組内での学習活動を展開します。
(2)庁内世論形成
業務委託の管理や計画は各事業所管課が担っている実態も踏まえて、庁内世論形成が重要となります。
厚生労働省通知「告示第37号に係る疑義応答集」の内容も踏まえた庁内への宣伝・周知を強化し、庁内世論形成を強めます。
(3)単組における方針化と検証
新たな委託化の阻止、現業職員の新規採用など職員定数確保を位置付け、2010年度予算人員要求闘争における具体的な要求前進へむけて、方針を確立し、検証作業などの必要な取組を具体化します。
3月31日付厚生労働省通知などの到達点を踏まえた自治体職場における「検証のポイント」を別途作成し、各単組に送付します。
(4)議会会派や関係団体との連携
必要に応じて、議会会派等との懇談を実施するなど、連携を進めます。
(5)委託労働者の組織化
委託労働者に対する東京自治労連が作成した返信ハガキ付リーフレット「公共一般の組合に加入しましょう」の配布を具体化し、委託労働者の労働諸条件改善・公契約闘争と結合して取組を進めます。
以上