生活保護「老齢加算」「母子加算」廃止問題に対する見解と
生活保護制度の生存権保障を守るための当面の対応について
2007年6月13日
東京自治労連中央執行委員会
1 「生存権裁判」を支える闘い
 生活保護の「老齢加算」が廃止されたことにより生存権を侵害されたとして、都内の生活保護受給者が東京地裁に本年2月に提訴し、現在、口頭弁論が開かれています。
 この「生存権裁判」訴訟に対して「生存権裁判を支える東京連絡会」が結成され、支援の輪が広がっています。
 東京自治労連は、東京都生活と健康を守る会連合会(都生連)や東京社会保障推進協議会(東京社保協)などとともに、この「支える会」の事務局団体のひとつとして活動を続けています。
 生活保護における老齢加算等廃止問題に対する見解を表明し、広く裁判に対する支援を訴えるとともに、生活保護制度改悪に反対し、生活保護行政を担う現場に生じている様々な課題を改善していくために当面の対応を示すものです。

2 生活保護における「老齢加算」廃止
 70歳以上の生活保護受給者に月々生活扶助として支給されていた「老齢加算」(2005年度で約1万8千円、約31万4千人が受給)が、2004年度からの3年間の経過措置を経て2006年度に全廃となりました。
 このため、都内の高齢者は生活費部分について2割近くも削減される大幅な生活保護費減額を余儀なくされました。
 国は、最低保障の生活費について2002年「生活保護における専門委員会報告」で取り上げ、70歳以上の消費実態比較を行っていますが、調査実施個体数について「加算廃止」に有利な資料を意図的に用いるなど、老齢加算廃止へ向けた意図的な対応が行われました。
 高齢者の生活実態を踏まえれば、物を噛む力の衰えに伴う消化吸収の良いものの摂取の必要性、体温調整能力の低下による暖房費増、また、社会的にも墓参、慶弔費などの交際費も多くなるものです。
 こうした高齢者の状況を踏まえぬ保護費2割削減に対して、悲痛な訴えが報告されています。
 
3 「母子加算」廃止問題
 「母子加算」についても、2005年度より3年間で受給世帯の子どもの年齢上限が18歳から15歳に引き下げられ、2007年度に廃止。
 15歳以下についても2007年度より3年間で廃止され、結果として全廃となります。
 ひとり親の生活保護受給者は、約9万6200世帯(最高月額2万3260円)に達していますが、母子世帯の労働環境等は厳しいため、被保護者以下の生活水準に置かれる世帯も多い現状です。
 こうした現状に対して、必要な生活保護を行わず、逆に、この低い生活水準に保護世帯水準を引き下げる策動となっています。
 母子加算廃止によって、子どもが家計を支えるために、高校を中退する、部活動を止めアルバイトをするなど、学業への影響も含めて、厳しい実態が表面化しています。

4 「加算」を含む生活保護費水準は、生存権保障に基づくもの
 最低生活費の基準設定については水準均衡方式が用いられ、消費水準の約7割を最低生活としています。
 高齢・障害・母子世帯などは一般水準では足りない部分を「加算」で補っているものであり、一般生活水準に近づけるためのものであって、被保護者以外の高齢世帯との均衡を損なうものではありません。
 生活保護法第1条は、「この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」として、「生存権保障」の具体化としての生活保護の目的を明らかにしています。
 そして、第3条において、「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。」と「最低生活」を規定しています。
生活保護の「老齢加算」「母子加算」廃止は、憲法第25条で保障している生存権に反するものであり、早急に撤回し、憲法、生活保護法の理念に立ち戻るべきです。

5 「加算」廃止は、生活保護制度抜本改悪への突破口
 政府は、「健康で文化的な最低限度の生活」の定義や検証もせずに、生活保護給付額を全世帯下位10分の1に該当する低所得世帯層(最も貧困な所得階層)の生活水準まで削減することを狙っています。(2003年12月、社会保障審議会の生活保護制度の在り方に関する専門委員会「生活保護の在り方についての中間的まとめ」)
 この低所得階層は、現行生活保護基準未満の所得水準であり、本来は生活保護受給世帯となりますが、未申請などによって生活保護を受けていないものです。
 いわば、現行の最低基準以下の生活を余儀なくされている所得階層に、生活保護給付額を引き下げようというものです。
 「老齢加算」「母子加算」廃止問題は、給付水準の大幅削減を中心とした生活保護制度の抜本改悪の突破口に位置付けられているものです。
 生活保護基準の引き下げは、就学援助制度や国民健康保険料減免基準、都営住宅家賃減免などにも直接的な影響を与えるものであり、社会保障全般の水準引き下げを狙うものです。
 
6 深刻な生活保護行政の現場実態
 生活保護制度を支える福祉事務所の現場実態も深刻なものとなっています。
 政府・財界による構造改革路線による格差と貧困の拡大によって、生活保護世帯数は引き続き増加を続けています。
 しかし、被保護世帯増に見合ったケースワーカーの増員は進まず、社会福祉法で標準とされるケースワーカー一人当たり80世帯という水準をはるかに超えて、区部では100世帯、市部では120世帯を超える状況が一般的となっています。
 国からは被保護世帯を減らすために、自立に向けた対応を強く求めていますが、こうした状況では、自立に向けた援助(ケースワーク)も困難であり、東京都保護課も、自治体ごとの具体的不足人員数を示してケースワーカー増員を求める事態に至っています。
 また、自治体当局の業務実態を踏まえぬ人事異動政策などの中で、経験年数の少ない職員が多く、ケースワーカー実務の経験の無い査察指導員も多くなるなど、経験やノウハウ等の蓄積・継承という面でも大きな問題を抱えています。
 精神障害や虐待ケースなど困難な対応を迫られることも日常的であり、メンタル面でダウンする職員も多く出ている状況であり、生活保護現場における職員の執行体制・労働条件の改善が強く求められています。
 また、政府や自治体当局による被保護世帯抑制方針に基づく自治体窓口における保護申請不受理に関わって、餓死問題や抗議自殺など深刻な問題が生じており、生存権を保障するための保護行政の確立が強く求められています。
 
7 当面の対応について
(1) 「生存権裁判を支える東京連絡会」の活動を強めていきます。また、全国各地で展開されている同様の訴訟と、「生存権裁判を支援する全国連絡会」など関係団体の取り組みに結集し、生活保護制度の改悪を許さず、生存権保障を守る取り組みを進めていきます。

(2) 生活保護制度をめぐる情勢を把握し、今後の取り組みの意思統一を図ること。ならびに、自治労連の提起する「見直そう、問い直そう、仕事と住民の安全・安心」運動を踏まえた、生活保護行政現場実態・運動の交流を目的として、6月28日に社会福祉部会の主催による学習会を開催します。

(3) 社会福祉部会で以下の2本の調査を実施し、生活保護行政における現場実態を明らかにし、改善の課題を確立します。
@ 社会福祉法・地方自治法改正に伴って、非常勤職員等のケースワーカーが拡大しており、この問題に関わる保護行政への影響などについての調査を実施します。
A 生活保護行政現場で働く職員の悩みや問題意識を集約し、改善に向けた課題を整理することを目的として、夏を目途に生活保護担当職員アンケート調査を実施します。
B 要求課題を確立し、対都・対区市当局への対応を行います。
以上